音声訳の視点から考える視覚障害者サービス  近藤友子 (2008年10月23日)

 関西部会   発表要旨 (2008年10月23日)

音声訳の視点から考える視覚障害者サービスと出版メディア

 本報告では公共図書館での視覚障害者サービスにおける音声訳活動を中心に音声訳とはどのようなものであり,また音声訳を行なうにあたって著作権や出版物との関係における問題などを提起し考察を行なった。
 視覚障害者が印刷された文字などの墨字資料を音に変換して利用する場合,この音への変換を声の読み上げによって行う人たちを今日一般的には音訳者と呼ぶ。音訳者によって読み上げられた内容はカセットテープなどに録音され,公共図書館などでは録音図書として視覚障害者へ貸し出すなどの利用サービスを行っているが,近年の情報化の進展は音声訳(音訳)の世界にも影響を与え,DAISY(デイジー)というデジタル方式での録音に切り替わりつつあり,CDなどの媒体による利用へと変わりつつある。また視覚障害者サービスは録音された資料を使うだけでなく,対面で資料を読み上げることにより資料を利用する対面朗読などもある。音声訳と対面朗読との違いなどについて実演を交えて報告し,その違いや音声への変換による問題などについてもふれ,今日の視覚障害者サービスがもつ問題を提起した。また日本点字図書館,著作権法,郵便制度の関わりをその動きや変遷を見ていくことで比較検討を行い,郵便制度の確立が視覚障害者への郵便による資料の貸し出しを支えてきた社会的基盤や日本における視覚障害者サービスの発展について報告した。次に事例研究として公共図書館の枚方市立中央図書館とNPO法人のデイジー枚方に聞き取り調査を行なった結果今日の視覚障害者サービスについて,中央図書館では分館とのネットワークが強く地域での役割が大きいが,NPOは自身の活動に視点をおきながら幅広い活動を目指していることがわかり,それぞれの立場からの「活動」「役割」「ネットワーク」について今日の公共図書館とNPO法人での活動の一例の報告を行った。
 また次に点字図書館についても考察を広げていった。点字図書館は1949年の身体障害者福祉法に基づく更正援護施設であり,1950年に制定の図書館法に基づく公共図書館とはその役割や対象者に違いがある。特に資料の蔵書については,公共図書館は購入によるものであり自館で製作する必要はないが,点字図書館の場合は購入すること自体が困難であり,自ら製作していく必要がある。製作に関しては協力者として録音図書資料の製作の場合には音訳者の存在が不可欠であると考えられ,音声訳の活動における音訳者の存在意義は大きいと考える。視覚障害者にとって音に変換された資料からの情報収集は大切な情報源であり,録音資料が増えていくことは利用できる情報源が増えていくメリットであるが,録音されたものは視覚障害者のみならず晴眼者も利用できる資料であることを忘れてはならない。この点は著作権や出版物との関係など問題となるところである。近年は点字図書館や公共図書館などの障害者サービス担当職員のために障害者サービスについての養成講座が開催されるなど,点字図書館と公共図書館の新たな繋がりと協力がみられる。また音声の読み上げ機器の発達や,携帯電話において録音資料を利用できるサービスの展開,DAISYによる録音への変換の推進など音声訳の世界においても今日の技術的な進展は大きい。こうした進展の中で音声訳に携わっている音訳者はどうあるべきか,また何を学んでいく必要があるのかという点は今後の課題である。
 本報告に対する質疑応答では,音声訳に対する具体的な技術面への質問や,音への変換に対しての問題などを音訳者はどのように捉えているのかなどの質問や意見が出された。また今日の音声訳の世界における課題や問題点などについて活発な意見や質問が出され,視覚障害者サービスと著作権との関係,また出版メディアとの関係についても幅広く意見が出されデジタル録音への過渡期にある音声訳を広い視点から考えていくものとなった。
(近藤友子)