出版産業はどこへいくのか  佐野 眞一  (2004年6月16日)

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 出版経営研究部会   発表要旨 (2004年6月16日)

出版産業はどこへいくのか
――『だれが「本」を殺すのか』の「検死編」を書き終えて
 発表者:佐野 眞一

 2003年度の日本出版学会理事会で出版経営研究部会の創設が決定し,準備会を数回開き,2004年6月16日に佐野眞一氏を講師に迎えて第1回例会を開催した。参加者は70余名。
 出版経営研究部会設立の趣旨は以下のとおりである。
 現在,日本の出版産業は経験したことのない大きな変動期にあり,一つの危機を迎えている。当部会は,日本の出版産業が直面する経営課題,経営資源問題,狭義の経営戦略,経営分析についてはもとより,産業構造,流通,サービス,マーケティング,イノベーション,その他さまざまな問題を横断的に取上げて研究していくが,最前線の問題だけでなく,古くて新しい問題も取上げる予定である。御期待ください。
[事務局]部会長:木下修,副部会長:永井祥一・中村文孝,幹事:星野渉。

 以下は,第1回例会(佐野眞一の発表)に関する報告である。
 佐野眞一氏は日本を代表するノンフィクションライターであり多くの労作を世に送り出している。日本の「出版産業」の実態についても出版社,取次,書店,図書館,その他関連事業者を克明に調査して何冊もの本を書いている。『だれが「本」を殺すのか』プレジデント社,2001年,『だれが「本」を殺すのか・延長戦part2』プレジデント社,2002年,『出版ルネサンス』長崎出版,2003年,『だれが「本」を殺すのか』(上・下,捜査編・検死編)新潮社,2004年,がそれである。
 『だれが「本」を殺すのか』は2001年に刊行された。その年は,出版物売上高の右肩上がり成長神話が97年に終焉してから5年目であり,しかも公正取引委員会が著作物再販制度の存廃の「結論」を出す直前に刊行されたことと,氏独自の論理が展開されていて,大きな反響を呼んだ。
 その増補版・文庫版が本年2004年6月に出た。そこには注目すべき「検死編」が付加された。「あとがき」の431―432頁に,「本については,もはや書くべきことはほとんどない。それが,これを脱稿した私の偽らざる実感である」と記されている。氏はマクロ・ミクロ,中心と終焉の両方から「本」をめぐる状況をつぶさに検証していったが,その最終的結論と称すべきものがこの増補版・文庫版であろう。なお,氏は経済産業省の「出版産業に関する商慣行改善調査」の委員(3名のうちの1人)を務めた。その報告書の加筆訂正版が『出版ルネサンス』長崎出版。
 当日の氏の発表は,おおむね「検死編」の流れに沿って行われた。いくつかの注目すべき事例の紹介があったが,ここでは詳細を省略。以下は発表内容の概略。
 グーテンベルクによって活版印刷術が発明されて以来約550年を経た現在,ディジタル化,ネットワーク化などに代表される情報技術革命の中で,「本」という乗り物(ビークル)がそれまでの特権的な地位から滑り落ちてワンノブゼムのビークルになった。現在出版産業は大変革に足許を洗われて危機的状況にあるが,決定的な解決策が見えないのが現状だ。出版物売上高は7年連続のマイナス成長が続いている。
 「本」が死んだ。「本」殺しの犯人を捜査していくと,「本」の死体解剖現場に立ち会うことになる。どの現場でも,蔵書の「死」,読者の「死」,著者の「死」,書店の「死」,雑誌の「死」を否応なく確認せざるをえない。
 だが,一方では,新しい動きがいろいろある。「本」の復活を感じさせるいくつかの小さな「予兆」,「新しいビジネスモデル」が出てきている。その新しい事実に氏は着目し期待する。「本」の復活・再生の可能性は如何。
 なお,講演の後,活発な質疑応答が行われた。
(文責:木下 修)