棚の生理学と下村彦四郎氏の書店活性化論  下村昭夫 (2005年9月12日)

 関西部会   発表要旨 (2005年9月12日)

棚の生理学と下村彦四郎氏の書店活性化論

下村昭夫

1.『棚の生理学』シリーズは,いかにして生まれたか
 出版書籍販売の先駆的な実務入門書,下村彦四郎氏(元・オーム社書店/元・出版学会理事)の『棚の生理学』シリーズは三巻ある。一冊目が1965年発行の『書店はどうすればよいのか』,二冊目が1966年発行の『書店の人と商品をどうするか』である。そして,シリーズの総まとめてとして,1970年に発行されたのが,『棚の生理学』である。
 京都と大阪のオーム社書店で,販売の実務学を学んだ下村彦四郎氏は,1960年にオーム社書店・東京本社の営業部に転勤,「大阪の商魂を,京都のキメ細かなサービスで包んで,東京の組織に乗せたい」と理想を描いていた。工学書の販売に持ち前の努力を重ねると同時に,業界誌にその販売理論を掲載していた。
 1965年2月に発行された『書店はどうすればよいのか』のあとがきには,「大阪でお客から学んだ2年間は,京都で体得した基本技術に,商魂という根性を一筋通してくれました」と書き,書店の「経営者向けにこの本をまとめた」とある。また,「この本が書店さまに喜んでいただくことができましたら,近い将来には,販売技術だけを別にまとめた第二冊目の本をつくりたいと思っています」とある。
 そして,1966年4月に発行されたのが,『書店の人と商品をどうするか』である。そのあとがきには,「いつのまにか,書くことが道楽のようになってしまいました。書けるチャンスを大切にすることは必要ですが,理論家や批評家になるのを恐れて,絶えず自分を戒めています」「一歩一歩勉強を続けて,よき実践家になりたいと念じています」とある。
 その4年後の1970年8月に,『棚の生理学=人件費をベースに考えた動態的商品構成』が発行された。そのあとがきには「棚の生理学は,出版物の販売という形のない技術との苦闘の日々から生まれた出版販売学の実務書である」とある。

2.下村彦四郎氏の書店活性化論に学ぶ
 小売業務15年,出版マーケティング15年,雑誌の広告営業12年のキャリヤと中小企業診断士・販売士などの資格を生かし,昨年1月他界する寸前まで16年間,次世代の販売士の育成と指導に専念し,お客様とともに歩む「書店像」を描き続けてきた下村彦四郎氏が,いま販売の最前線に立つとしたら,一体どんな「新しい販売手法」を考えるのであろうか?
 『よみがえれ書店』の中で,青田恵一氏は,「書店の基本業務から,とくに大切なものをひとつ選ぶとすれば,定番管理が挙げられる。定番リストを完成するためには欠本調査が欠かせない。これを欠かすとき,在庫も返品も増えてしまうからだ。」と述べ,次のように下村彦四郎氏の先駆的書店活性化論の一部を紹介している。
 元・オーム社書店の下村彦四郎氏は,その著書『棚の生理学』のなかで,「売行き良好書ほど欠本になりやすい」と力説し,「悪いやつほどよく眠る」とたとえた。下村氏は,そのうえで,「欠本調査が商品知識を持つ担当者の養成にもっとも効果がある」と結論づける。ふと楽しく想像することがある。全国の書店が,この欠本調査による定番管理チェックを定期的に行い着実な売上の向上を図れば,どのような結果になるだろうか。

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 『棚の生理学』のオリジナル版発行から40年が経過した。時代背景が変わり,出版状況が激変したいま,マイナス成長下で苦しむ出版販売の最前線に立つ書店の皆さんへのメッセージとして,三冊の『棚の生理学』シリーズの新装版(復刻版)を出版メディアパルから刊行した。
 『棚の生理学』シリーズが,過去の出版販売学の遺産としてだけでなく,出版の近未来へのメッセージであることを確信している。だが,『棚の生理学』の心を語るべき下村彦四郎氏の声をもう聞くことはできない。
 以上の報告に対して,下村彦四郎氏の書店活性化論から今日学ぶべきものはなにか,など活発な質疑応答があった。また,下村氏の生前の思い出も語られ,氏を偲ぶ会ともなった。参加者は14名,会場は関西学院大学大阪梅田キャンパス。
(下村昭夫)