文字メディアの限界と未来  秋山哲 (2004年1月23日)

 関西部会   発表要旨 (2004年1月23日)

文字メディアの限界と未来

秋山哲

 2004年1月23日の出版学会関西部会の研究会では,奈良産業大学経済学部の秋山哲教授に御報告いただいた。秋山氏は,1957年に毎日新聞社に入社。大阪本社経済部長,同編集局長,経営企画室長,取締役(広報担当,出版担当),常務取締役(広告担当,東京本社代表)の要職を歴任している。
 今回,2003年9月にミネルヴァ書房から刊行された「本と新聞の情報革命」に基づいて,報告いただいた。これは,2002年春に同志社大学の博士論文として提出されたものを書籍に改組したものだという。
 (5)のまとめを除いて,4つの章からなる今回の報告の(1)『本と新聞の情報革命』の主旨――で氏は次のように論を進める。ここでは,情報革命における「情報」を「デジタル化され,ネットワーク化(D&N)されているもの――と定義する。文字情報はD&N革命を乗り越えて成長するものであり,本と新聞は当然の流れとしてD&N化される。その準備は整っているが,ビジネスモデルが不分明であるため,本格的に動いていない――。
 (2)の本と新聞の苦境――では,いくつかの統計を見ると,1996年,97年をピークに,新聞,雑誌,書籍の売上高が確かに減少していると指摘した。しかし,それは費やす時間の減少のせいではない。
 毎日新聞社の『読者世論調査』によると,テレビが普及して視聴時間がほぼ横ばいになった1965年ぐらいから2001年に至るまで,マスコミ4媒体に費やす時間は漸増傾向であり,新聞+書籍雑誌がそのうち30%前後,テレビが50%代後半(テレビ+ラジオだと70%前後)という大枠の数値は,この40年間変わっていない。
 (3)文字情報は強い――では,『情報流通センサス』を元に論を進めた。新聞,雑誌,書籍,図書館貸出における「書き言葉」の情報量は,1980年の約220兆ワードに対し,2000年では約280兆ワードと1.2倍になっている。これにファクシミリと文書コピーの分を加えると,1980年の275兆ワードに対し,2000年では754兆ワードと,約2.7倍になっている。これに対し,画像情報は,1980年の約5600兆ワードから約7900兆ワードへの,1.4倍の成長にとどまっている。
 (4)出版社と新聞社の対応――では,売上高300億円を超える場合,出版社でも新聞社でも,インターネットによる情報提供などD&Nメディアへの進出をほとんどが果たしているが,300億円以下だとその割合が下がることを示した。
 また,新聞社が,デジタルメディアのみに特化したときの経営指標の試算として次のような数字を示した。2001年度の推定値をもとに,販売(購読料)収入をゼロとし,広告収入をそのまま維持,印刷,製作,販売の人員をゼロとし,用紙費,資材費,製作経費をゼロとし,営業経費を6割減程度としてみる。こうすると,実際の推定値,売上高約1兆9900億円で営業利益が約1000億円のところが,売上高約9600億円で営業利益が約2300億円となる。
 経済部長,経営企画室長を経験した氏にふさわしく,大胆すぎる最後の数字を除くと,背景に常に統計数値を置きながらの立論であった。
(文責 中野潔)