電子ペーパーの現状とコンテンツ開発  檀上英利 (2002年9月24日)

■ デジタル出版部会   発表要旨 (2002年9月24日)

電子ペーパーの現状とコンテンツ開発

 デジタル出版部会(植村八潮部会長)は6月25日,神田錦町の東京電機大学において「電子ペーパーの現状とコンテンツ開発」のテーマで部会(講演会)を開いた.
 凸版印刷の檀上英利氏が,E Ink社と共同で事業展開している電子ペーパーについて,大竹善二郎氏が,新たなメディアが生み出すコンテンツについて解説した.以下に概要を紹介する.
ミクロンレベルのマイクロカプセルを利用
 電子ペーパーは,紙メディアと電子ディスプレイメディアのギャップを埋めるもの.紙メディアはこれからも続くのは間違いないが,書き換えができない,たまると嵩張る,などのデメリットもある. E Ink社は,MITメディアラボ出身者らが1997年に設立.2001年にフィリップ社と戦略的提携を行っている.一方,ゼロックス社パロアルト研究所は,2000年にジャイリコンメディア社を設立,電子ペーパーの研究を行っている.国内では電気泳動や液晶を,世界では多数が有機ELを研究している.印刷は,電子ペーパーの商用化に最も近い技術と考える.E Inkの技術は,マイクロカプセル型電気泳動方式を利用する.表示原理は,基材面の上にコーティングされた透明なマイクロカプセルの内部に,帯電した白(酸化チタン)と黒(カーボンブラック)の多数の粒子があり,電圧をかけて白い粒子が上に引き寄せられると上から白く見え,逆の電圧により黒い粒子が上に引き寄せられると黒く見える.読むということにおいては,メモリー性があり,電源を切っても表示したままの状態が残るので消費電力が少なくてすむ.薄くて軽くて見やすく,視野角が広くて我々が見なれているディスプレイとなる.現在の欠点は,反応速度が遅いことだが,形態情報端末には向いていると考える.将来的には曲るディスプレイを検討する.市場ニーズは,インターネット(莫大な文字メールの量),高齢化社会(ユニバーサルデザイン,デジタルデバイド),読むためのディスプレイ(PDA,電子辞書),電子出版への揃いつつあるビジネスモデル(コンテンツ,ディスプレイ,ネットワーク)など.さらならる研究開発(多階調化,フレキシブル化,動画対応)も進めている.2003年の半ばに,モノクロの商品で,秋葉原で買えるようにしたい.
カラー化も可能
 自由に色を出すためには,光の3原色の赤・緑・青の強さをコントロールする.たとえば黄色は赤100%・緑100%・青0%で表現する.カラーフィルタは一つの画素を三つの領域に分け,赤・緑・青のストライプの組を整列させたもの.赤・緑・青フィルターの下のマイクロカプセルを白・黒・灰色と制御することで,フルカラーを実現できる.カラー化に関し,当社とE Inkは独占的に提携している.当社が得意とするのは,カラー,量産,販売,用途開発などである.
コンテンツが決め手 
 当社の情報配信ビジネスに「ビットウェイ」がある.コンテンツ提供→コンテンツ流通→コンテンツ販売(ISV,ポータルサイト)→幅広いネットへ,というような展開を行っている.セクシー系,グラビア系の出版社のものがよく売れている.モバイル向けコンテンツ配信「エアービットウェイ」も始めている.ダウンロードマガジンが最も多く,交通機関内による移動中の暇つぶしではないかと考える.アクセス時間は,通常のインターネットは夜10時~朝2時なのだが,この時間帯ではない.利用形態と利用時間帯が拡大している.出版社から,PDAで電子書籍を読む配信プロジェクトが次々と立ち上がっている.電子書籍の課題は,携帯性(空間的時間的な制約と携帯性に欠ける),視認性(ディスプレイは疲れる),作り手側(出版社)負担,タイトル数(電子書籍コンテンツ)の絶対的な不足,ユーザーの理解と経験不足などであろう.モニターでグラビア写真のようなものを見る場合は,見ている人は目があまいが,電子ペーパーは反射型なので,紙と同じレベルでシビアに見られるかもしれない.ルビが読めるくらいの精度が必要なのではないだろうか.
読書と応答速度
 講演後,活発な質疑応答,意見交換が行われた.入力デバイスと電子ペーパーは関係するだろうか,の質問に,E Ink社は念頭においている,とのこと.ペンタブレットやタッチパネルが考えれられるとのことだ.また,フォント開発に応用できるかの質問に,可能である,との答え.エンドユーザーコンピューティングという言葉があるが,エンドユーザーエディティングという言葉があってもいいのではないか,との見解があった.さらに,携帯情報端末で本を読むのは応答速度が非常に重要になる,との意見が出た.
(文責:中村 幹)