中国の電子出版の現状  張志強 (2010年10月28日)

■デジタル出版研究部会  発表要旨(2010年10月28日)

中国の電子出版の現状

張志強

 中国の電子出版は90年代から始まり,1991年に武漢大学出版社からFloppy Diskで刊行された『国共両党関係通史』(150万文字)が中国のはじめての「電子書」といわれる。

1.概況
 2009年時点の電子出版の市場規模が799.4億元である。そのうちは,携帯電話の配信が314億元,電子ブックが14億元,デジタル雑誌が6億元,電子新聞が3.1億元であり,そのほかに,ネットゲームや広告がそれぞれ256.2と206.1億元である。純利益総額は63.9億元である(注:1元=12.5円)。
 近年,電子出版に積極的に参入する動きが見られる。主な参入者として,①出版社,②携帯通信業者,③コンテンツ配信業者,④閲覧端末メーカーが挙げられる。
 出版社は紙媒体の図書や雑誌をデジタル化することによって,積極的に電子出版に参入する。各社は専用の電子ブックデバイスを開発することを特徴としている。「大手出版社グループ」「読者グループ」「上海世紀出版グループ」「江蘇フェニックス出版メディアグループ」「中国出版グループ」などからさまざまな「電子閲覧器」が出ている。また,ネット系新型出版業者は,コンテンツの整合によって商品を系列化し配信する。
 携帯キャリア中国移動が従来のサービスを活用し,携帯電話で電子書籍を読む業務を2009年から展開している。ほかに中国聯通,中国電信などのキャリアも年内にこの業務を導入する予定がある。
 コンテンツの提供サービス業者方正グループが中国移動と提携し,図書,ニュース,株など綜合的情報サービスを提供する電子ブックデバイス「文房(WeFound)」を開発,方正阿伯比(Apabi)は阿伯比電子図書館を開館,番薯網を創設(2009年)など,積極性を見せた。また,費用は高めだが,最近,ハードウェア+3年以内通信量制限なしの3G(TD-SCDMA)セットサービスとベストセラーは3年間無料ダウンロード(1万名ユーザー限定)を,4800元で提供する動きがある。
 それに対して,漢王,EDOなど閲覧端末メーカーは,コンテンツ提供サービスに転向の動きが見られる。たとえば,漢王は独自で漢王書城を開発し,電子ブックを無料でダウンロードする業務を行う。読者が一冊本をダウンロートすると,漢王が出版社に2元の使用料を支払っている。また,漢王は出版社など平面媒体業者などと連携し,電子書,電子新聞,電子雑誌などのコンテンツを獲得する。また,ネット文学サイトなど電子媒体と連携し,モバイルコンテンツサービスを提供する。盛大グループは出版資源とネット図書館を構築し,流通と販売を展開し,盛大創院などソフト・ハードウェアを一体化する。他に,パソコンや携帯電話など製造メーカーは,電子ブックデバイスにも進出意欲が挙げられる。

2.問題点
 こうした華々しい動きの中,さまざまな問題点が指摘される。産業構造の混乱,資源の無駄によって,市場発育には不健全の影響を与える恐れがある。

3.展望
 政府の政策として,2010年10月9日,「電子ブック業発展に関する意見書」を公布した。
その主な内容,①コンテンツの充実,②伝統出版資源の電子化への転換を整合化し,質を高める,③コンテンツ資源提供する土台の構築,④電子ブック生産技術の向上,⑤電子ブック産業の大型プロジェクトの実施,⑥ブランド戦略の創出,⑦電子ブック市場の育成,などが挙げられる。
 そして,市場の規範,例えば電子書籍の標準化の促進や,電子ブック業界准入制度の法整備などを求められる。
 最後に電子出版の発展のために,①全体的な文化水準向上と読者層の拡大,②収入の増加によるエンゲル指数の落下,余暇の時間の拡大と寿命を伸長,③技術の発展と文化商品を絶えず更新することなども必要とされる。
【本紹介は,南京大学出版科学研究所所長,南京大学情報管理学部教授・張志強氏の講義の内容を編訳したものである】。