「読書のバリアフリーを進める」新名新・林剛史・植村八潮・落合早苗(2023年3月8日)

■ 日本出版学会 第8回出版アクセシビリティ研究部会 開催報告(2023年3月8日開催)

 第8回例会は、画像電子学会第51回VMA研究会及び画像電子学会第17回視覚・聴覚支援システム(VHIS)研究会との共催の形で、「読書のバリアフリーを進める」のテーマのもと、2023年3月8日(水)の15時よりオンラインで開催された。報告者と報告タイトルは次の通りであった。新名新氏・林剛史氏(株式会社メディアドゥ)「アクセシブルライブラリー開発経緯および現状と課題」、植村八潮会員(専修大学)「出版・図書館における「読書バリアフリー法」対応の現状と課題(その2)」、落合早苗氏(ABSC準備会)「ABSC設立に向けて」。以下、概要である。
 

アクセシブルライブラリー開発経緯および現状と課題
新名新・林剛史(株式会社メディアドゥ)

 2022年6月にサービスを開始したアクセシブルライブラリーについて、その開発経緯、現状と課題が報告された。アクセシブルライブラリーは、著作権者、出版社、自治体などの関係者が受け入れ可能かつ持続可能な事業として、電子書籍をTTSで読み上げる視覚障害者向け電子図書館サブスクリプション・サービスである。
 アクセシブルライブラリー開発にあたって重要視したポイントは次の通りである。
(a)電子書籍流通ビジネスとしてのサービスの構築
(b)著作権者、出版社の許諾を得た上でのサービスの提供
(c)メディアドゥがお預かりするEPUBリフローファイルをそのまま利活用できるシステム
(d)視覚障害者の利用に特化したUIと、高速でも聞き取りやすいTTSシステム
(e)市町村区/市町村区図書館の協力による利用対象者の視覚障害者への限定
(f)市町村区/市町村区図書館が利用しやすいビジネスモデルの提供
 アクセシブルライブラリーは、2023年2月現在、提供出版社数が6社、提供作品数は14,000点、導入自治体数は9自治体である。2022年10月には、デジタル庁主催の「good digital award」にてエンターテインメント部門優秀賞、最優秀賞を受賞し、さらに全9部門の最優秀賞であるグランプリも獲得した。2022年12月には、日本電子出版協会(JEPA)主催「JEPA電子出版アワード」においてエクセレント・サービス賞を受賞し、全5部門から選ばれる電子出版アワード大賞も受賞している。
 今後の課題としては、提供コンテンツ数を増やすこと、出版物に含まれる図表の扱い、マンガの扱いなどがある。アクセシブルライブラリーという社会的役割のあるものは、その維持継続も重要な課題である。できるだけ多くの自治体に契約していただくこと、できるだけ多くの出版社・著作権者に参加していただくことで、事業を継続することが可能となる。また、新しい技術の進化や、社会状況の変化によっては他のサービスとの連携も重要な課題になり得ると考えている。
 

出版・図書館における「読書バリアフリー法」対応の現状と課題(その2)
植村八潮(専修大学)

 今回の報告は、2022年度の画像電子学会第50回VMA研究会で報告した「出版・図書館における「読書バリアフリー法」対応の現状と課題」の続報である。
 まず、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)の目的と出版に関する条文、同法に基づく国の関係者協議会、国の視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(読書バリアフリー基本計画)について整理、確認した。
 その上で、関係省庁による読書バリアフリー法に基づく検討会の動向についてレビューした。本報告では、経済産業省による電子書籍市場の拡大等に関する検討、国立国会図書館における電子図書館等に関する検討、総務省による電子書店のアクセシビリティに関する検討などを取り上げ、それぞれの検討経過、検討内容、今後の展開などが紹介された。これらの検討の結果は、報告書やガイドラインなどの形で関係省庁のウェブサイトで公表されるので、ぜひ確認してほしい。
 

ABSC設立に向けて
落合早苗(ABSC準備会)

 ABSC(Accessible Books Support Center)設立に向けての準備状況や今後の展望などが報告された。
 ABSC準備会は、2021年6月に日本出版インフラセンター(JPO)の理事会にて設置が承認され、同年9月に第1回の準備会が開催された。その後、同年11月には出版社2,200社に準備会設置が告知され、12月には説明会も実施された。2022年4月には準備会内にTTS推進WGが発足。同年6月には『ABSC準備会レポート』が創刊された(現在、第2号まで発行)。
 ABSC設立に向けた活動としては、大きく次の3点に整理できる。(1)業界内での情報共有、(2)TTSの推進、(3)Booksのアクセシブル対応。(1)については、例えば、すでに述べた『ABSC準備会レポート』などを通して、バリアフリー本の種類と図書館の所蔵数、出版社による読書バリアフリー対応事例の紹介、支援団体の紹介などを行っている。(2)については、例えば、出版情報登録センター(JPRO)との連携、出版社への働きかけ、電子書店への働きかけを行っている。(3)については、JIS X 8341-3「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」の「A」準拠、電子書籍やオーディオブックも掲載、TTS対応の有無の表示に取り組んでいる。
 ABSC準備会からABSCへ向けて、ABSC専用サイトの開設と運用、TTS対応の促進、既刊アクセシブル・ブックスの分類整理、サピエ・公共図書館との連携などの取り組みを進めていきたい。

参加者:25名
方 式:Zoomによるオンライン開催
(文責:野口武悟)