「大宅壮一が遺したもの」阪本博志(2023年2月24日)

■ 日本出版学会 雑誌研究部会 開催報告(2022年2月24日開催)

 大宅壮一が遺したもの――「智的労働の集団化」と「人間牧場」
 報告者:阪本博志(帝京大学)

 
 帝京大学の阪本博志氏による報告を中心に雑誌研究部会を開催した。阪本氏は、2019年11月に、大宅壮一(1900~1970)に関する初の学術書『大宅壮一の「戦後」』(人文書院)を上梓した。このなかで、戦後の「マスコミの王様」と呼ばれた大宅の活動と、戦時中の海外ルポルタージュの発表やプロパガンダ映画へのかかわりとの連続性を論じている。本報告は、同書の延長線上に「大宅壮一が遺したもの」について考えるものであった。
 まず、大宅のライフヒストリーをマス・コミュニケーションとのかかわりから捉えると、第一に、彼が文章力を培った投稿活動は、近代日本を代表する出版社の勃興ならびに出版活動と重なるものであった。第二に、彼が活動を開始したのは、都市部を中心に円本ブームに代表される大衆社会化状況が到来した戦間期にあたる時期であった。第三に、大宅が「マスコミの王様」の名をほしいままにしたのは、高度成長期に大衆社会化が全国規模で進むなかでマスコミの基盤が整地された時期であった。このように各時代のマスコミの状況と大宅のライフヒストリーに重なりがあり、なかでも「雑誌」というメディアとの深いかかわりがあることが、確認された。
 次に、「大宅壮一が遺したもの」のひとつとして、戦間期に大宅が考案し翻訳や人物評論において実践された「智的労働の集団化」がとりあげられた。ここでは、その概要が示され、実際の雑誌づくりにいかにいかされていったのかが、出版社系週刊誌における「アンカー・システム」の導入、それによる週刊誌ブーム、立花隆の「田中角栄研究――その金脈と人脈」(『文藝春秋』1974年11月号)などを通して検証された。そして、戦間期(1933年、34年にかけて大宅が主宰・刊行した雑誌『人物評論』)・プレ高度成長期(1954年の『週刊朝日』100万部突破)・高度成長期(週刊誌ブーム)・ポスト高度成長期(立花による調査報道)をつなぐものとして、「智的労働の集団化」が位置づけられた。
 さらに、「大宅壮一が遺したもの」として、大宅が晩年に主宰した「大宅壮一東京マスコミ塾」にも焦点が当てられた。マスコミ塾においてさまざまな人間を集め「交配」をおこなう「人間牧場」という大宅の発想が、どのようなものであったのかが、同塾の出塾者や大宅自身の言葉から丹念に検討された。その上で、インターネット時代における「人間牧場」の重要性が説かれた。
 以上のような報告の後に質疑応答がなされた。ここでは、ソーシャルメディア発展に伴う現代的なメディア環境・文脈において大宅が提唱した「人間牧場」的なあり方がいかなる可能性を持ち得るのか、また、大宅が大衆娯楽雑誌に与えた影響などについての議論がなされた。

日時: 2023年2月24日(金) 午後7時00分~8時30分
会場: オンライン開催
参加者: 14名