「武蔵野大学の雑誌制作教育」上田宙(2022年10月21日開催)

■ 日本出版学会 第6回 MIE研究部会 開催報告(2022年10月21日開催)

「武蔵野大学の雑誌制作教育」
 上田 宙
 (武蔵野大学文学部日本文学文化学科非常勤講師、烏有書林代表)

 
 第6回MIE(雑誌利活用教育)研究部会で武蔵野大学非常勤講師・烏有書林代表の上田が、「大学での雑誌制作教育」の実例として同大学でのフリーペーパーづくりに関する実践報告を行った。
 2015年から上田は武蔵野大学で非常勤講師として本づくりを教えているが、4学期制のため、わずか2ヶ月で冊子を完成させねばならず、とにかく時間に追われるうちに終わってしまうという消化不良感があった。学生からも毎年のように、もう少しじっくり取り組みたいというリクエストが出ていた。
 そこで2021年、通年の「日文特別ゼミ IV」が実現した。せっかくなので少人数で一年をかけてじっくりフリーペーパーをつくり、それを大学構内を始め近隣の書店やカフェにもおいてもらうまでを想定した。

 まず、発行者名、媒体名などを考えるところから、記事の企画、取材、執筆、編集、デザイン、DTPまでを学生自ら行う。基本的には、学生の若い感性を尊重し、学生から出てきた企画案に関して良し悪しのジャッジはせず、その企画をより面白くするためのアイデア出しといった助言のみに徹した。
 制作する冊子の仕様は、A5判中綴じで、表紙・本文ともカラー印刷。総ページ数は特に決めず、48ページ前後(とりあえず4の倍数になっていればよい)とした。

 武蔵野大学での実践で最も特徴的なのは、記事執筆者と、それを編集・レイアウトする担当者を別にしている点だと思っている。記事執筆者は自分の原稿を担当編集者に託し、同時に他のメンバーが書いた原稿を受け取って編集・デザインを担当する。このようにして、すべての履修生が著者役と編集者役の両方を体験する。
 自分で書いて自分で誌面をデザインするよりも難易度は上がってしまうが、自分の書いた記事だけで完結するのではなく、時には担当編集者として著者とコミュニケーションをとりながら誌面をつくっていくことで、自分の作品を他者に預けたり、他者の作品を預かって扱うことの難しさや楽しさを知ってほしい、との考えから、あえてそのような形をとっている。

 学生が最も苦戦するのがDTP作業である。最初にアプリの基本的な操作方法は説明するが、大学の授業だけではなかなか使いこなせるところまではいかない。そこで、まずは原稿をよく読み込んで誌面のデザインをイメージし、そのイメージを手書きでラフレイアウトに描き起こさせることにしている。そのラフを一緒に見ながら、それを実現するために必要なDTPアプリの操作方法を教えていく形で進めている。
 とかく学生は作ることに夢中になり、誌面をにぎやかに飾りたてる方向に行きがちになる。そのため、読者が置き去りにならないよう、まずは読みやすさ、実際に読んでくれる読者のことを第一に考えること、その上で必要があれば装飾を、と話している(が、これがなかなか理解してもらえないのが辛いところ……)。

 昨年度は、最終的には印刷通販サイトで約50冊を印刷・製本してもらい、大学の事務局や近隣の書店等を学生が自ら回り並べてもらった。これは、出版の醍醐味である出版物をつくることとそれを読者に届けることの両方を体験してもらいたい、との思いからだ。実際ある書店では、「冊子をSNSで紹介したところ、この冊子を目当てに来店した方もあった」と喜ばれた。
 授業アンケートには、「『本』の見方、読み方が授業前と圧倒的に変わった」「どうすれば一番読む人にとって良いか?といったことを意識できた」といったコメントがあり、この授業を行った甲斐があったと感じることができた。
 
日 時: 2022年10月21日(金) 午後6時30分~8時30分
開催方法: 会場での対面形式とZoomによるオンラインの同時開催
会 場: 専修大学 神田キャンパス 541教室(5号館)
参加者: 20名(会員15名、非会員5名。うち、オンライン参加者11名)

(文責:上田 宙)