京都外国語大学図書館所蔵稀覯本・「活字の歴史・印刷の歴史」印刷史料見学会 (2017年8月7日開催)

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■出版技術研究部会 開催要旨(2017年8月7日開催)

 京都外国語大学図書館所蔵稀覯本・「活字の歴史・印刷の歴史」印刷史料見学会

 案内役:
 奥正敬
 (京都外国語大学図書館副館長)
 小倉有紀子
 (丸善雄松堂・学術情報ソリューション事業部・古書部、ワールド・アンティーク・ブック・プラザ担当)

 
 京都外国語大学付属図書館と京都外国語短期大学付属図書館の蔵書構成における稀覯書コレクションは、1968年から1980年の間、第3代図書館長を務めた森田嘉一同学理事長・総長のもとで収集された。その根幹は、語学を通じた国際地域研究の推進を支援するところにある。
 すなわち洋書は言語研究のための世界の古辞書・古辞典、キリスト教文化圏の研究に必要な古聖書・宗教関係書、各国の古地図類、そして海外の人々による東洋研究の成果としての西洋言語で記された日本研究書等が挙げられる。一方、和書は我が国の対外交渉史料や近世の漂流記、江戸末明治初期の横浜絵等で、これらの集合体は、東西の研究資料コレクションが対を成しているところが大きな特徴と言える。
  2017年、大学創立70周年の節目を迎えたことを記念して、「世界の軌跡を未来の英知に」と題する稀覯資料展を、丸善日本橋店において開催、約60点の貴重書と著名人の自筆書簡約30点等の展示を行った。
 ジョージ・ワシントンやウィンストン・チャーチル等国家指導者や、アダム・スミス、チャールズ・ディケンズ等多岐の分野にわたる著名人の自筆書簡は、これまで一般公開されることが少なかったが、それぞれの人物の著作など関連文献もともに並べることで、その人物像や社会背景のイメージ喚起の一助とした。
 稀覯書では、『カトリコン』(1470年刊)など印刷揺籃期の本や、シェイクスピア没後7年の1623年に刊行され「ファースト・フォリオ」と称される貴重本『戯曲全集』(4種)をはじめ、ダンテ『神曲』(1497年)、モンテスキュー『法の精神』(1749年)、ジョンソン『英語辞典』(1755年)など、世界各国の歴史的書物を紹介した。
 書物の制作技法関連の史料としては、パピルス(8~11世紀)、ヴェラムに書写された『聖書』(1250年頃)や装飾写本『聖母日祷』(1500年頃)、イベリア半島で制作されたコルク本『ドン・キホーテ』(1905~1906年)、日本の手漉き和紙から生まれた巻子本、同館が所蔵を誇るチリメン本のジャンルから長谷川武次郎の『絵でみる日本の人々の生活』(1895年、1903年)等、書物の素材や形態の観点からセレクトした貴重史料を出展した。

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京都外国語大学図書館所蔵稀覯本について解説する奥正敬氏(上図右奥・同大学図書館副館長)

 この稀覯書展に合わせて、同階別室のワールド・アンティーク・ブック・プラザ(企画運営・丸善雄松堂)では「活字の歴史・印刷の歴史」をテーマに、初期活版印刷による出版史料(グーテンベルク活字使用の『カトリコン』1469年原葉など)や活字見本帳、電鋳母型(中国製か)など、ヨーロッパと日本の活字の歴史に関わる実物を多数展示(販売)しており、いずれも実物を手に取って見ることができた。

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日欧の印刷史料を見学する参加者(丸善日本橋店、ワールド・アンティーク・ブック・プラザ)

 社会における電子化の進展が顕著な現代にあっても、紙媒体の優位性は失われず、書き写された文字や印刷活字、製本の様相の実際を目にし、あるいは手にすることで、書物が成立した時代や社会背景を読み取り、体感することが可能となる。長い時代を生き抜いてきた古典籍がこうして公開されることは、先人たちの後世へのメッセージに触れる貴重な機会となり、意義深いことであると言えよう。

参加者23名(会員7名、非会員16名)
会場は丸善日本橋店3階展示会場およびワールド・アンティーク・ブック・プラザ
(文責:田中栞)