学術出版の課題と役割(3)――電子書籍と出版流通 金原俊 (2017年12月8日開催)

■学術出版研究部会 開催要旨 (2017年12月8日開催)

学術出版の課題と役割(3)――電子書籍と出版流通

金原 俊 (医学書院 取締役副社長)

 世界的な出版デジタル化の潮流は、学術出版の世界にも急速な変容をもたらしている。第1回の橋元博樹会員(東京大学出版会)による出版社の立場からの報告(2017年2月17日)、第2回の牛口順二会員(紀伊國屋書店)による書店流通の立場からの報告(同年6月9日)に続き、第3回目となる今回は、医学書院取締役副社長であり医書ジェーピー株式会社(医書.jp:http://www.isho.jp/)取締役でもある金原俊氏を報告者としてお招きし、STM(Science, Technology and Medicine)書籍の電子出版の視点からの議論を行った。
 金原氏からは日本の医学書市場の規模や関連する電子書籍販売の成功モデルの事例が詳細に紹介されただけでなく、日本の出版社は自らを製造業(コンテンツメーカー)として認識する一方、欧米の出版社は自身を流通業(コンテンツディストリビューター)と捉える傾向があるのではないかという興味深い論点が提出された。それぞれ経営規模の小さい日本の出版社が医書.jpのようなサイトを通じて協働していくことの意義、出版社の役割はコンテンツをPublish(出版)していくだけでなくPublic(公的)なものにしていくことであるという思いから、エンドユーザが望む形式、販売方法でコンテンツを送り届けていきたいというサービスに対する指針が示され、具体的なビジネスモデルのコンセプトについての言及がなされた。
 それに応える形で、本会では討論者としてシュプリンガー・ジャパン/ネイチャー・ジャパン(springernature.com)代表取締役社長のアントワーン・ブーケ氏が登壇され、毎年1万2千点以上の学術書を刊行する世界最大のSTM出版社である同社の実績が紹介された。シュプリンガー社の電子書籍の発行点数は右肩上がりで2017年には23万点を超えるが、まだ日本の導入実績はその規模は米国に比べて極めて小さく、その背景にある日本の研究者たちが抱える心理的、資金的な事情などが指摘されることとなった。
 両氏による日本と米国の学術出版環境が置かれた最新の状況についての報告と討論がなされた後は、議論は会場へとひらかれ、出版社、流通、読者など様々な見地から、出席者(計21名:会員15名+非会員6名)による活発な議論が展開された。

日時: 2017年12月8日(金) 午後6時30分~8時30分
会場: 専修大学神田キャンパス 571教室(5号館7階)

(文責:山崎隆広)