知り,考え,パースペクティブをもつこと 柴野京子 (2014年2月24日)

出版教育研究部会 発表要旨(2014年2月24日)

知り,考え,パースペクティブをもつこと――本と出版の現在

柴野京子 (上智大学文学部新聞学科)

 今回の報告では,担当する授業の概要を紹介しながら,今日の大学で「出版」を授業として位置づける場合の問題点とポイントを,参加者とともに議論することを目標とした(参加者 会員12名,非会員2名)。

1.本学の特徴
 上智大学新聞学科は学科別の入試を行っているため,1年次から4年間在籍する。1学年の定員は約80名で,メディア関連企業の志望者,帰国子女,留学経験者,留学生など,海外での在住経験者の比率が高いという特徴がある。出版関連の講義科目は,2年次以上が対象の専門科目に相当するが,他学部・他学科の受講者もある。受講者数はおおむね100名~120名である。

2.授業の概要
○出版論I(春)本と出版の現在/II(秋)出版の近代と理論
 「正しい現状認識がなければ,新たなパースペクティブも生まれてこない」という方針のもと,春学期ではまず出版産業の基本的な構造や知識を教授したうえで,デジタイゼーションなど,今日あらわれている潮流を幅広く解説している。一般の学生は,時に驚くほど本や出版の基礎知識が不足しているにもかかわらず,ステレオタイプな先入観をもつ例が少なくない。出版の変革期にあっては,既存の「出版業界」に拘泥せずに,「出版」「書物」のフレームを自分なりにとらえなおす力が,作り手としても読み手としても不可欠である。授業の最後には,そのような実践をしている人々の仕事も紹介し,その切実さがどこから来るのかを考えさせる。
 秋学期の授業は,歴史の大転換点としての「今」を考える方法として「近代」を扱う。歴史は苦手とする学生や留学生を考慮し,時系列に沿いつつも各時代にひとつのテーマをたてている。たとえば「震災と出版」の回は,関東大震災が出版流通のトリガーになったことを素材に,東日本大震災とデジタルアーカイブについての議論を展開するものだが,学生からは率直な反応がある。
 上記のほか,非常勤の集中授業などでは,講義の合間にビブリオバトルを実施している。
○雑誌論(大衆文化論) 雑誌,もしくは雑誌論の可能性
 「雑誌とは何か?」を問うこのカリキュラムは,売れ行き不振による「雑誌は終った」言説,実際にはほとんど読まないにもかかわらず,「雑誌に興味がある」と発言する学生たちの意識に対して,どのような授業が可能なのかを模索しながら作成した。したがって,「雑誌の可能性」を考えるとともに,「雑誌論の可能性」を問うものでもある。具体的には,重要な先行研究を参照しながら,「ジャーナリズム」「文芸」「ジェンダー」「消費」「カルチャー」「情報」「運動」など,いくつかのテーマを設定して戦後雑誌を考える講義を行っている。入手困難な古雑誌は,コピーを製本して回覧するなどしている。2012年度には,学生による研究プログラムも実施した。
 上智大学では実践系の科目が少なく,卒業論文は必須である。メディア系の学科では,とくに方法論が重要であり,考える力とともに資料へのアクセスや扱い方を指導していくことが,今後の課題である。
(文責:柴野京子)