「専門書店と取次の関係を考える」姉川夕子(2022年11月18日開催)

■ 日本出版学会 出版教育研究部会/実践女子大学図書館〔共催〕
 開催報告(2022年11月18日開催)

「専門書店と取次の関係を考える:
 猫本専門「神保町にゃんこ堂」を題材にして」

 講師:姉川夕子 (株式会社にゃんこ堂 代表取締役)
    図書館学生ボランティア:徳永江里子
      (実践女子大学 人間社会学部現代社会学科4年生)
 司会:伊藤民雄(実践女子大学図書館)

 
1.はじめに

 本屋の生き残り戦略の一つとして、特定のジャンルに特化する専門書店化がある。今回のセミナーの企画は、出版業界の理解を深めることを目的として、猫本専門の書店経営者である姉川夕子氏から専門書店と出版取次との関係を含め、書店経営から得られた知見、新たな発想法、魅せる棚づくり、知見を活かして関わられた図書館再生プロジェクト等を多方面から語っていただいた。
 今回のセミナーの企画に当っては2つの報告の存在があった。一つが、かつて存在したミステリー専門書店の報告で、専門書店だからといって優遇されない新刊仕入れと返本の両面で取次の関係で終始悩まされたとする一方で、マニアックなお店ならではの本の売れ方、顧客と本屋の間にあるサロンとなっていたとあった。もう一つは、実践女子大学・実践女子大学短期大学部図書館で組織し、学生が自主的に企画・活動する図書館スタッフ「ららすた」の活動報告で、猫本専門書店と取次の良好な関係が記述されていた。
 
2.徳永江里子さん「神保町にゃんこ堂」と実践女子大学図書館との関係

 徳永さんから、「ららすた」の2021年度の活動で行った「神保町にゃんこ堂」への書店取材と、その御縁で姉川氏に講師依頼したPOP講座の様子が報告された。同店を選択した理由の一つとして、学生仲間に本・書店への興味・関心を喚起するため、複数の候補から同書店が最適と感じたことによるもので、取材を申し込み訪問すると、多忙にも関わらず優しい笑顔で出迎えてくれた男性店主のエピソードが語られた。
 
3.姉川夕子氏「潰れかけの書店から全国から人が集まる猫本専門書店へ」

 姉川氏からは、最初に姉川書店の立地と歴史が語られた。同店は広さ10坪ながら、千代田区・神保町交差点という立地の良さから30年近く経営は安定していたが、2010年頃からネット書店の急成長や出版不況の煽りを受け、客注や人気書の入荷遅延が目立つようになり、一気に売上が急降下、経営難に陥ったとのこと。閉店の時機を窺っていた店主(父親)から「売れるか売れないかに関係なく、人が立ち止まってくれるような面白い書棚(売り場)を作れないか?」との相談があり、大企業がターゲットしないニッチな方向にシフトすることを決断するとともに、本だけでなく、利益率の高い雑貨系商品の組み合わせが必須と考え、好きなジャンルでないと飽きると感じ、最終的に「猫本」を選択した。同店内の1つのコーナーから始まった猫本専門コーナーは確実に「ファン」を増やし、評判が評判を呼び全国から「猫本」+α(オリジナルグッズ)を求めて来店者が集まるようになった。他との差別化により、共感したファンが集まり、これまで経験のなかった入店時のお客さんからの挨拶や来店理由の自主的な申告等驚かされたこともあったという。
 姉川氏が気付いたこととして、「猫」に関わらず本は世の中にある全てのモノ、ジャンルアイテムとマッチすること、好きなモノと本を一緒に並べることでコーナーの価値や内容に奥行きを与えること、よりニッチなものほど話題になりやすく、オリジナルグッズを作ることでファンを獲得できること、等であった。一方で、注意すべき点としては、流行や契機に左右されにくく、損得勘定なしに買い物が出来る専門性のある商品に特化すべきであるが、書籍を使った専門コーナーを作ると、そのジャンルに詳しい人と認識されるため、にゃんこ堂は「猫本」専門でありながら、「猫」そのものに詳しいと誤認されることも多く、本当に興味があるジャンルでないと続けることの難しさが痛感されたという。
 オリジナルグッズ作成のオファーあり、ドラマ化のオファーがあり、そんな中舞い込んだのが来館者減少で閉館の危機にあった地方図書館の再生計画への協力依頼で、図書館スタッフと一緒に手掛けた「猫ノ図書館」は入館者、貸出冊数とともにV字回復を果たし、地元のメジャーリーグ野球選手のコーナーとともに二大看板になっていった、とのことであった。最後に姉川氏本人が感じる書籍まわりのことが語られ、講演を締めくくった。
 
4.議論(ディスカッション)

 取次との関係について、配本10%、注文(客注)90%であるとのことで、大手取次との関係は良好であるが、新刊初刷の本はやはり入荷しにくいとのこと。その一方で、同じ神保町にある神田村と呼ばれる取次群の中には、当店のために猫本新刊を確保してくれる取次もあるのこと。また、店主の方針で、縁があって入荷した本はほとんど返本することはなく、長年の経験から、売れる本だけでなく、売れない本も一緒に並べ、さらに一冊だけでなく、複数冊数同じ本を並べないと売れない、という考えが経営に反映されているとも。
 失敗談についての質問に対し、失敗は数多くあるものの、損して得取れ、という心得のもと、プレッシャーがない分、書店経営をできるだけ長く穏やかに続けたいという考えがあるが、その一方で、猫本の新刊点数が減少している事実もあり、本だけに依存しない経営も追求していく必要もある、と述べられた。
 
日 時: 2022年11月18日(金) 午後3時~4時30分
会 場: Web会議システムZoomを利用したオンライン開催
参加者: 申込者47名 (会員10名、一般37名うち学生4名)
     当日の聴講者は43名程度(推定)

本セミナーは、「図書館総合展2022」のポスターセッション枠を利用し開催した。

(文責:伊藤民雄)