日本出版学会のこれから
富川淳子
(日本出版学会第13代会長、跡見学園女子大学教授)
メディアの劇的な変革によって日本出版学会とはどのような研究領域や活動を許容する学会なのかが問われ、出版の本質についての再考も求められています。このような時代に日本出版学会はさらなる発展を目指して「議論の場の強化」を活動目標に掲げて歩み始めました。
前会長の塚本晴二朗先生は任期2年間の目標として、1.出版業界と学会が共にメリットとなる「産学連携プロジェクト」を探っていく。2.メディア新世紀における出版学とは何かという問題を提起するために出版物『パブリッシング・スタディーズ』を刊行するという2点を挙げました。塚本先生の後を継いだ私が目指すところは、「産学連携」の具体的事例の実現と、デジタル時代の出版学とは何かを問う機会を提供することにあるといえます。
そのために何をすべきか。この答えが日本出版学会の「議論の場の強化」です。これまでも春と秋に研究発表会での研究発表やワークショップ、研究部会でも充実した意見交換はされてきていました。しかし私はその議論の場をもっと広げたい、もっと深めるべきだと思っています。
日本出版学会はさまざま分野の専門家がそれぞれの視点で出版学を研究する会員と出版界の実務家で構成されています。出版学の多様な研究者たちと実務家たちの活発な議論によって出版学の本質を問う。同時にそれを通じて「デジタル化と出版」「書店の存続」のような出版界が現在抱えている難問も新たな方向性が見えてくる可能性は大いに期待できます。
また私は雑誌編集に30年以上携わってきました。雑誌作りは企画や撮影などさまざまなプロセスでスタッフと意見を交換しあい、ページを作りあげていきます。自由な議論があってこそ読者を楽しませ、刺激するページが生まれることを体験してきました。もし前向きな議論がなかったら、おそらく雑誌文化は色あせたものになったに違いありません。
今後、研究発表会では前例に囚われず、ワークショップのプログラムを増やす、ワークショップに出版業界の方も加えるなど議論が活発化する工夫をどんどん提案してほしいと思っています。また研究部会長が集まって討議する部会長会をワークショップとして開催するなど研究部会活動の活性化を進めたいと考えています。
最終的なゴールは言うまでもなく、出版文化の向上に資することを目的とした日本出版学会のさらなる発展です。出版はすべての学術研究団体の基礎をなしています。先人の研究は学術書およびデジタルアーカイブという形で後生に残され、文化や科学の発展に寄与してきました。その出版の本質を見つめ、研究を担う日本出版学会の任は大きい。任期の2年間、日本出版学会が出版文化を支え、未来を生み出す「議論の場」となることに全力で取り組む所存です。会員の皆様、どうかご協力ご支援をお願いいたします。