第41回日本出版学会賞 (2019年度)

第41回 日本出版学会賞審査報告

 第41回日本出版学会賞の審査は、「出版の調査・研究の領域」における著書および論文を対象に、「日本出版学会賞要綱」および「日本出版学会賞審査細則」に基づいて行われた。今回は2019年1月1日から同年12月31日までに刊行・発表された著作を対象に審査を行い、審査委員会は2020年2月17日、3月20日の2回開催された。審査は、出版学会会員からの自薦他薦の候補作と古山悟由会員が作成した出版関係の著作および論文のリストに基づいて行われ、その結果、日本出版学会賞2点、同奨励賞2点、同特別賞1点を決定した。
 なお、日本出版学会関西部会編『出版史研究へのアプローチ――書物・雑誌・新聞をめぐる5章』は、「研究の手引」的な書物なので、学会賞の候補作とはしないが、方法論や研究における資料収集の技法は、きわめて有用であり、学会の今後の研究活動に進展に資する著作と認められるものである。


【日本出版学会賞】

稲岡勝 著
『明治出版史上の金港堂――社史のない出版社「史」の試み』
(皓星社)

[審査結果]
 本書は、教科書出版で知られる明治の出版社「金港堂」の活動を、雑誌、新聞記事、東京都立公文書館の公文書や、会社の定款・内規、さらに個人蔵の出版契約書などをもとに描き出したものである。教科書疑獄の問題も含めて、金港堂の出版活動は、編集、流通や販売など、出版史上の重要な論点と不可分に関わっているが、従来、金港堂は出版通史のなかで簡単に触れられる程度で、また巷間伝わる情報にも誤りが多かった。それらを史料の吟味によって正し、一つの像を提示したことは本書の意義の一つであるが、第一部と第二部において、出版史研究の方法論の次元を引き上げようとする著者の意図が明瞭に(しばしば鋭い舌鋒を伴って)説かれている点も重要である。副題「社史のない出版社「史」」の試み」は、1980年に発表された著者の論考の副題である。本書には改定後の新稿が収められているが、断片的な史料に依拠しがちな出版史研究のなかでいかに基礎を固めるかという点にこだわった著者の問題意識は今なお古びていない。今回、一冊の本の形で公刊されたことは、今後の近代出版史研究にとって大きな意味を持つものといえ、日本出版学会賞に相応しいものと考える。

[受賞のことば]
 稲岡 勝

 「出版業の興亡盛衰の烈しさは定評がある。かつて明治時代に、出版王国を誇った博文館も忘れられて久しい。その同時代に、盛時は博文館をしのぐ勢いを示した金港堂という出版社があった。何故か、一世を風靡したとか、業界を牛耳ったとか、勢力をうかがわせる言辞は出版史の片々に見かけるが、その実体を明らかにした体系だった論及はまだない。」(「金港堂小史」序文、東京都立中央図書館『研究紀要』11号 1980年3月)
 「教科書の出版は、一般の出版業とは殆ど没交渉であるから、一般出版業者は別に深い関心は持たない」(小川菊松『出版興亡五十年』)。小川の言説は業界人の一般常識らしく、従来の近代出版史は専ら一般図書と雑誌の研究が中心テーマで、金港堂に代表される教科書出版は全く等閑に付されてきた。
 教科書の歴史は主には教育史学に委ねられ、制度史や各教科の内容分析などが研究の中核である。従って唐沢富太郎が教科書史の課題として提唱した「出版機構の解明」などは望蜀の領域で、教科書出版の実態追究は空白のままに放置されてきた。近代学校教育の誕生で必備になった小学教科書。それらは一体いかに編纂・印刷製本され、どのように生徒の手に届く(供給網)のであろうか。
 迂闊にもそのような状況とはつゆ知らず、誰もやる人がいないというごく単純な動機で金港堂の出版活動の掘り起こしを始めた。幸運にもこれが金の大鉱脈を掘り当てることになる。金港堂の歴史を追求することは即ち、教科書出版の歴史をなぞるのに等しく、ひいては明治出版文化史の基本的骨組みに光を当てることに他ならなかった。
 明治8年横浜に創業した金港堂は、神奈川県下の文部省翻刻教科書一手販売を手始めに、茨城、群馬と版図を拡大。とくに木戸麟『小学修身書』は短期間に14版を重ね、府下一の書籍商になる源泉となった。早くも明治19年には多彩な人材を集めて金港堂編輯所を開設、来るべき20年代の飛躍を準備した。小学教科書に検定制が敷かれた明治20年頃から、教科書疑獄事件を招来した明治35年頃までが金港堂の全盛時代と言って良いだろう。
 拙著は金港堂の出版営為をそうした明治の時流に沿って記述分析したものである。また俗説まみれの教科書疑獄事件(第四部)については、漢詩人長尾雨山(文部省図書審査官)を軸に再検討し官吏収賄裁判の異様な実相を明らかにした。第五部「日中合弁事業の先駆、金港堂と商務印書館の合弁 1903-1914年」は日中出版交流史の早い事例であるが、日中間の不幸な歴史を反映してこの史実も長い間闇の中に埋もれてきたのであった。

 


【日本出版学会賞】

大和博幸 著
『江戸期の広域出版流通』
(新典社)

[審査結果]
 従来の近世出版史は三都にある書肆の研究が中心であり、地方は天明・寛政年間(1781-1801)以降に地方版が版行されたというのが通説であった。
 第一章では「地方出版活動動向表」・「広域出版流通動向表」など、一次史料を元にした数種の表を著者は作成し、通説でいわれている天明・寛政年間より以前から地方出版が活発に行われていたことを明らかにした。さらに三都で出版された本は従来指摘されていた十九世紀に入ってからではなく、十七世紀半ばごろから広く地方に流通され始め、十八世紀半ばまでには広域流通網が根付いたことを明らかにしている。第二章では、地方本屋の個別事例に即して、その実態を明らかにしている。
 このように著者の研究は、一次史料に基づいた実証性の高いものと評価でき、近世出版史研究に多大な影響を与えた学術書として、日本出版学会賞にふさわしいものと判断した。

[受賞のことば]
 大和博幸

 この度学会事務局から賞を授与して下さるとのお知らせを頂戴しました。著作本に対して、思いがけなくも専門学会である日本出版学会から高い評価をしていただけたのみならず学会賞まで受賞させていただけるというのは、私にとりましてまことに光栄なことであり心より御礼を申し上げます。
 対象となった『江戸期の広域流通』は、①江戸期に各地で営業活動を行っていた地方本屋はどれくらいの数存在していたのだろうか、②地方本屋はどんなジャンルの本を作っていたのだろうか、③地域内に居住するどの階層に向けて販売を意図していたのだろうか、④地方本屋は三都で出版された購入希望客からの注文本をどのような方法で入手していたのだろうか、⑤地方本屋は、営業する広い地域内へ本を流通させるためにどのような方法を採っていたのだろうかなどといった課題を考え、長年にわたって書き溜めてきた論文の中から該当論文を抽出し加筆修正を施した上で刊行したものです。因みに著作の動機は、当時司書として勤務していた國學院大學図書館で貴重書整理担当になり、古書を正確に整理することが強く求められるようになったからでした。
 上記した疑問を解決するには、現存する江戸期に出版された本を網羅的に収集し、本のジャンルと奥付に記す地方本屋を抜き出し集成する作業を綿密に行う方法が有効と考えました。作業を続けることで江戸中期から時代を追うように地方本屋の数もジャンルも広がって行くことが跡付けられ、①から③までの課題はおおよそながら確認し得たのではと考えています。④と⑤の課題については、作業を続ければ理解できると思っていたのですが甘かったようです。当初本の流通については、「往来物」など初心者向けの地元制作本を除き、三都内の本屋が形成する取次体制を考えるだけで十分だと思っていました。ところが作業を続けるうちに多様な取次網があったらしいことがわかり、上記の方法だけでは流通体制の半ば程度しか理解し得ないことに気付きました。
 江戸期の本からは薬屋との関わりくらいしか明らかにならなかったのですが、明治初年まで広げるといくつかの例がわかるようになります。一例として著名な画家や儒者などを部立(ランク付)にした「書画一覧」をみてみます。この刊行物は主体が書画骨董商で購読者も限定されていたからでしょうか、江戸期には奥付に本屋の名が記された例をあまり見かけません。しかし明治期になるときちんとした奥付を付すようになります。そこには、「編輯人」、「和漢書画骨董商」、「三府及諸国文人諸先生周旋人」、「諸国発売書肆」などの名が列記されています。江戸期の本屋は、新刊本を扱うだけでなく古本や写本も商うのが一般的でしたから、書画商や骨董商との関係も当然あったはずです。諸国周旋人の中に地方本屋の名が少なからず見出されますが、これは地方本屋が書画・骨董業界に参入して行く際の一方法を示唆しているのだと考えています。
 従来から云われているように、地方本屋増加の最大要因が小・中学校使用の教科書及び教育関連本の販売にあったことは間違いありません。しかしこうした方面の研究ばかりに目が向けられることには複雑な気持ちが残ります。薬種商の他にも江戸期から書画商、骨董商、小間物商、文具商などとの連携があったはずで、他業種との連携を積み重ねてきた下地があったからこそなし得た結果なのだと思います。今後はこうした他業種との連携事例を掘り起こすことに力を入れていきたいと考えています。研究を続けるためにも今回の受賞が私にとって大きな励みとなることは間違いありません。本当に有難うございました。

 


【奨励賞】

山森宙史 著
『「コミックス」のメディア史――モノとしての戦後マンガとその行方』
(青弓社)

[審査結果]
 本書は「マンガ」という表現形態を問うのではなく、出版物として生産・流通・消費されている「出版メディアとしてのマンガ」を取り上げている。そこではコミックスというコンテンツの容れ物(コンテナ)に注目し、「コミックスとは一体どのような出版メディアなのか」を問いかけている。
 コミックスがマンガ固有の出版メディアとして認識される過程を、生産、流通、消費ごとに歴史的成立経緯を中心にして出版産業論や読書論の枠組みで捉え、資料を丁寧に掘り起こしている。終章で、マンガコンテンツのデジタル化が進む中で、紙メディア・出版メディアとしてのマンガの問い直しを大変意欲的に試みているが、この点については、筆者の次の研究成果を期待したい。以上のことから、日本出版学会賞奨励賞にふさわしいものと判断した。

[受賞のことば]
 山森宙史

 このたびは、拙著『「コミックス」のメディア史』(青弓社)が、第41回日本出版学会賞奨励賞という大変歴史ある賞を頂戴することになり、大変光栄に思っています。改めて拙著の完成にご尽力いただきました出版社ならびに多くのみなさまと、拙著を手に取ってくださった読者の皆様に心より御礼を申し上げます。
 本書は、タイトルの通り、いまや日本国内の出版産業になくてはならない出版ジャンルであり、1960年代以降、雑誌とならぶマンガ出版の主流形態として長く親しまれてきた「コミックス」と呼ばれるマンガ単行本出版物の成り立ちについて明らかにしたものです。
 「あとがき」にも書かせていただいたように、本書は博士論文を大幅に加筆修正したものですが、その頃より一貫して頭を悩ませていたのが、「なぜコミックスを問うのか」、そして「どうコミックスを問うのか」というところでした。とりわけ、コミックスが「出版研究」、「マンガ研究」、「メディア研究」の三つの学問的アプローチから不可避な対象である以上、ではどのアプローチが最も適切にコミックスの姿をとらえられるのか? という点は試行錯誤の連続となりました。詳細は省きますが、これら三つの先行研究群を検討していく中で見えてきたのが、「雑誌中心主義」という問題であり、「コミックス」を問う、というシンプルなひとつの問いが、思いがけず三つの学問ジャンルにおけるマンガをめぐる議論の問題点を浮かび上がらせたということでした。それゆえ、単に「コミックスはいかにして今のカタチになったのか?」を明らかにするだけでなく、コミックスを通じてマンガをめぐる「出版メディア」観の成立過程を追うことで、「なぜマンガは出版メディアにもかかわらずそのように問われにくいのか?」という、いままで深くは検討されてこなかった、「マンガ」と「メディア」という概念とのある種の“相性の悪さ”を問題にしたかったという意図があります。
 ただ、その企てが本書のみだけで十分に達成できたかとは到底言えないため、今後も引き続きこの「不可思議な出版メディア」についての精緻な研究・議論を積み重ねてまいりたいと思います。

 


【奨励賞】

巽由樹子 著
『ツァーリと大衆――近代ロシアの読書の社会史』
(東京大学出版会)

[審査結果]
 本研究が分析の対象とするのは、近代ロシアの高級文化を担った「厚い雑誌」と、大衆文化を担った民衆達(ナロード)による「軽い読書」の間に出現した『ニーヴァ』などのいわゆる「絵入り雑誌」である。シャルチエ、ダーントンらの読書の社会史研究ほか多様な手法を参照しながら、これまで啓蒙的な文脈で語られることの多かった近代ロシアの社会史、メディア史を批判的に捉え返して、出版者(社)、著者、読者、インテリゲンツィヤ、ナロード、専制など、当時のロシア社会の様々な行為者の視点からその「読書界」が再構成されていく。
 本研究にしたがえば、近代ロシア社会のブルジョア化にともなって現れた絵入り雑誌というメディアは、当時のロシア社会のいわば中間文化を象徴するような存在ということになろうが、それらはロシア革命後には一旦消滅するも、その後再び隆盛を誇るようになっていったのだという。その盛衰の姿はきわめて興味深く、他の研究領域にも示唆を与えるものであろう。豊富な一次史料の調査に基づく分析も非常に説得的である。
 言及される史料の数々は研究対象として大変魅力的であり、これまであまり論及されることのなかった近代ロシアの出版界に新たな研究の領野を拓いたという点においてもその功績は大きい。今後、隣接する近現代の文化、社会研究にも拡張の可能性を感じさせる非常に優れた研究である。

[受賞のことば]
 巽 由樹子

 このたびは、日本出版学会賞奨励賞を頂戴したことに深く感謝申し上げます。私は、大学院は西洋史学の研究室に学び、学会や勤め先ではもっぱらロシア研究に関わってきました。そのため、出版と読書の歴史を研究するにあたって重要な印刷技術や装丁、書籍の取引や流通網、図書館や貸本業者の役割、出版社の経営など、専門的な事象をどう勉強したらよいか、一人で考え込むことも多くありました。そうした中、東京大学出版会が快く拙著の刊行を引き受けてくださったこと、そのうえ日本出版学会の方々がそれに目を止め、評価してくださったことは、視界が明るく照らされるような出来事でした。
 受賞作『ツァーリと大衆』は、近代ロシアに新たに現れた週刊の絵入り雑誌とその出版機構、そして読者大衆が、専制体制下のロシア史の展開にいかなるインパクトを与えたかを考察したものです。ドイツやイギリス、フランスの週刊誌を模倣した絵入り雑誌は、その名の通りふんだんに挿絵を配し、必ずしも教養のない読者を対象としていました。それゆえ記事中、もっともらしく載せられた統計データに総計しても100%にならないという誤りがあったり、検閲下でぎりぎりのセクシー路線かと思わされる表紙の挿画があったり、ポピュラーサイエンスと称して宴会芸のような実験を紹介したりと、猥雑な性格を有します。この「不真面目」な史料の魅力を損なわずに本を書くこと、それによって、しばしば鹿爪らしく論じられてきた帝政末期のロシア史に、見落とされてきた側面があると示すことが目標でした。
 自身の狭い研究課題に関心を集中させる時期を過ぎ、今、出版や書物の歴史に関する欧米や日本の概説的な文献を読むと、ロシアをはじめとするスラヴ語圏についての情報が抜け落ちていると気づくことがあります。たとえば活版印刷術が伝わった地としてアントウェルペン、パリ、ヴェネツィアなどの名は挙がるものの、ヨーロッパ東部の都市はあまり言及されません。しかしロシアには、ソ連時代よりモスクワとサンクトペテルブルクの国立図書館に研究部門が置かれ、史料やデータの調査や読者心理の分析など、出版研究が厚く蓄積されています。言語的障壁が一因となって紹介されにくい、キリル文字の世界の出版史をより広く学び、欧米やアジアのそれとの接続や比較の取り組みに新たな知見を加えられるよう、今後、いっそう研鑽してまいりたいと思います。

 


【特別賞】

金沢文圃閣
(出版活動全般および「文献継承」の発行)

[審査結果]
 金沢に本社をおく同社は、1999年の創業以来、希少な近代出版史関連資料の発掘と復刻に大きく尽力してきた。同時に、「文圃文献類従」シリーズをはじめとする出版物の編纂や解題、機関誌「文献継承」の発行においては、機関・在野を問わず、研究者に執筆機会を提供し、史資料に関する情報の共有につとめている。これらの出版活動には、本学会からも多くの会員が参加して成果をあげており、国内外の研究機関で所蔵される状況にある。
 こうした出版研究への並みならぬ貢献に対し、同社の創業20周年を機に特別賞をもって顕彰したい。

[受賞のことば]
 金沢文圃閣

 小閣は戦前・戦時から戦後、そして高度経済成長期にかけての出版・メディア史資料の発掘・整備につとめている出版社ならびに古書店で金沢文圃閣と申します。
 このたび第41回日本出版学会賞におきまして、「希少な出版史関連資料の発掘と復刻に尽力」したという功績で、「日本出版学会賞特別賞」を授与いただきました。
 石川県金沢市長土塀という「裏日本」の一地域で、通常の書店〔この「通常」も大いに歴史的なものですが〕にも陳列されないような「資料集」を作り続ける小閣のようなものにまでお目配りいただいた日本出版学会賞審査委員をはじめ学会運営ご関係者の皆様に海より深く感謝いたしますとともにその学会としてのウイングの広さに感服申し上げます。
 さて、小閣最初の出版物は、天野敬太郎編『雑誌新聞文献事典』(小閣、1999年9月9日)という雑誌・新聞メディアに関する書誌でした。この本は同時に出版・書誌・書物メディア史のシリーズ「文圃文献類従」の一冊目でもありました。
 この一冊目の出版からおかげさまで昨年、出発20周年を迎えることができました。シリーズ「文圃文献類従」のタイトルは91点を数え、その刊行巻数は368巻になりました(2020年末現在)。
 資料の発掘・整備の際には、単なる復刻に留めることはなく、新規に総目次・索引を作成しています。これらのデータについてはホームページにて無料公開しています。調査・研究の検索時にこの公開中の出版関係者人名・雑誌新聞タイトル名、出版・新聞社などの主題キーワードが何らかの手がかりになればとの思いからです。
 しかし、巻数は当然増えているのですが、この間の売上部数減少は大変に厳しいもので、各タイトル約六分の一以下になっております。つまりお恥ずかしい話ですが、300部普及していたものが、現在は50部以下ぐらいしか売れないという極超零細限定出版状態でございます。加えて、本2020年新型コロナウイルス感染拡大が追打ちとなって、事態はいっそう深刻化し、出版販売につきましては図書館・研究者の方々への営業もままならない状況にあり、国内ならびに海外図書館では新型感染症の影響を受け、紙媒体の予算は今後さらに減少するという予想も出ております。
 そのような「悲惨」な、ともすれば弱気になりがちな2020年のなかでの「受賞」は、小閣にとっての大きな光明でした。思い返せば、シリーズ「文圃文献類従」は、著者・編者・印刷・製本・流通・書店・図書館・読者利用者・古書市場などの協力によって刊行ラインナップを重ねてきました。言ってみれば「特別賞」は、上記協力者の代表代理として「金沢文圃閣」があくまでも「受賞」したに過ぎないわけです。弱気になっている場合ではありませんでした。
 「特別賞」を「この列島の各地域に存在する協力者と今後もさらに広く深く継続せよ」という叱咤・励ましとうけとめ、なお一層、出版・メディア史資料の蒐集・発掘・整備につとめます。