第20回国際出版研究フォーラム発表「出版創作イベント「NovelJam」と大学の出版演習授業への応用」鷹野凌(2022年8月25日)

出版創作イベント「NovelJam」と大学の出版演習授業への応用

 鷹野 凌
 (NPO法人HON.jp)

 
NovelJamとは?
 「NovelJam」は、NPO法人HON.jpが主催している出版創作イベントである(商標登録登録番号6115964号)。「著者」「編集者」「デザイナー」が1カ所に集まり、お題に基づき小説作品を執筆、編集、校正、制作、出版までを数日間で行う。いわゆる「小説ハッカソン」だ。
 2017年2月に第1回を開催し、本稿執筆時点までに通算で5回開催、のべ164人が参加、89点(うち合本が4点)を出版してきた。このイベントの目的や内容、筆者が大学で開講しているデジタル出版演習授業へのフィードバック状況について、国際出版研究フォーラム2022で発表し、『出版研究』53号で報告した。会報ではその概要をお伝えすることにする。

企画経緯
 HON.jpは、本(HON)のつくり手をエンパワメントすることにより、創造性豊かな社会を実現することをビジョンとする非営利団体で、筆者は創業時からの理事長である。HON.jpが2014年1月から2016年8月まで刊行していた電子雑誌「月刊群雛」をベースに、短期集中型のイベントとして開催するアイデアが提唱され、NovelJamの企画へ★繋がった。
 企画の参考にしたのは「福島GameJam」や「Startup Weekend」などの、いわゆるハッカソン(hackathon)である。プログラマーやデザイナーなどが1カ所に集まってチームを作り、短期集中作業でソフトウェア開発を行うイベントだ。端的に言えば、これを小説の執筆と本の編集制作に応用したのがNovelJamである。

目的
 NovelJamの運営は、参加者に以下の3点が得られることを期待している。
 ●チームで創作し「創発(emergence)」を引き起こす
 ●出版の工程を「体験(experience)」する
 ●出版する「仲間(fraternity)」を増やす
 これにより、出版行為(publishing)に必要な技能(日本語表現・編集・校正・デザイン・制作・プロモーションなど)の向上と、デジタル・ネットワーク技術を活用できる人材の育成を、NovelJamの目的として設定した。つまり出版と言っても、印刷、製本、取次搬入などをやるわけではない。要するに、セルフ・パブリッシングを、チームで行うイベントなのだ。

構成要素

 チームで行うことを重要視しているため、NovelJamが成立する最低要件を「チームで創作し不特定多数に公開(=出版)するイベント」としている。小説の完成だけでなく、表紙(カバー画像)を用意してパッケージ化し、販売開始までを数日間で行うことになる。
 時間が限られているため、作品制作のさまざまな工程をチーム内で役割分担することが重要となる。そのためNovelJamへの参加申込み時には、「著者」「編集者」「デザイナー」のうちどの役割を希望するかを尋ね、希望者の多い役割は抽選などの手段で選抜を行う。
 あとは作品を完成させるための全工程が、イベントを構成する要素となる。「お題」の提示、アイデア出し、プロットづくり、原稿執筆、編集、校正、表紙デザイン、メタデータの準備、デジタル出版のワークショップ、作品プレゼン、審査(あるいは相互評価)、懇親会、イベント終了後の販売促進活動などである。運営はイベント終了の最終締切に向け、各工程がいつごろまでに完了していればよいかの目安を提示するなど、タイムキープに務める。

演習授業への応用
 実は、NovelJamへの参加申込みは毎回「著者」の希望が圧倒的に多く、「編集者」「デザイナー」が少ない。イベントの運営者としては、とくに「編集者」が不足している現状を問題だと感じている。インターネットの普及に伴い誰もが発信者になれる時代となり、コンテンツは爆発的に増加した。恐らく今後は、AI生成コンテンツにより幾何級数的に増加していくことになるだろう。ところが「編集されていないコンテンツ」ばかりが増えているのが現状だ。
 筆者は実践女子短期大学(2015年から2019年)と二松学舎大学(2019年から)でデジタル出版演習の非常勤講師を務めている。NovelJamを構成する要素を抜粋し、授業のカリキュラムへフィードバックしている。前述の問題意識を踏まえ、この授業では受講生に「編集者」として1人1点の出版を目指すことをミッションとし、執筆工程より編集工程に重きを置くことにした。
 編集スキルは、出版社でのみ必要とされているわけではない。社会に出て企業で働くことになれば、議事録、報告書、提案書など、業務上必要なコンテンツの生産は誰もが行うことになるし、それを磨き上げてどこへ出しても恥ずかしくないものとするには、きっと編集スキルが役立つことだろう。