「大手書店チェーンの販売実績について」伊藤民雄(2019年11月30日、秋季研究発表会)

大手書店チェーンの販売実績について
――少し前の本、新刊ともに売れるのか

 伊藤民雄
 (実践女子大学図書館)

 
 本発表は、2014年と2015年にナショナルチェーンである大手書店チェーンの全店舗で販売された書籍全点を研究対象に行った。
 
1.研究の背景と目的
 ジュンク堂書店の田口久美子は、同書店の池袋進出に当たり、『書店不屈宣言』増補(ちくま文庫)のあとがきで、「アマゾンとほぼ同時期に、リアルのロングテール書店、つまり販売機会の少ない本を在庫することで顧客を獲得しよう、という戦略」であった、と書いている。インターネット書店は、出版流通・販売システムと委託等の商習慣の影響は受けるものの、リアル書店が受ける店舗面積、陳列棚の数等の制約は受けない。また、売れ筋の本だけでなく、出版社の在庫次第では比較的出版年の古い本も扱うことができる。そのように考えると2007年段階で、「全国27店舗の床面積合計約7万平方メートル、東京ドームの1.5倍」であったジュンク堂書店は「販売機会の少ない本」を置くこともできるため、インターネット書店に近い存在であると言える。
 そこで、大手書店チェーンの販売実績について、インターネット書店で見られるようなロングテール的な現象が見られるか否かを研究目的とし、①大手書店チェーンではどれだけ出版年の古い本が売れるのか、②取次経由で流通する本は全て店頭に並ぶのか否か、③取り扱った本がほぼ売れているのか否か、以上3つの課題を設定し調べてみることにした。
 
2.研究上の問題点と研究方法
 一番の問題点は、大手書店チェーンの協力が得られるか否か、である。全店舗で販売された全書籍の内訳を公開している大手書店チェーンはない。幸いなことに、全国30店舗以上を展開するナショナルチェーンのA書店の協力が得られ、全書籍の1点当たりの販売総数は叶わなかったが、全店舗で2年間に1冊でも販売実績のある書籍全点のリストが提供されることになった。
 A書店の全店舗を一つの店舗として仮定し、2014年と2015年の2年間に1冊でも販売実績がある本のリストを2017年9月19日に取得した。3つの課題、①大手書店チェーンではどれだけ出版年の古い本が売れるのか、②取次経由で流通する本は全て並ぶのか否か、③取り扱った本がほぼ売れているのか否か、を次のような手法で分析する。
 ①については出版年に対する販売点数のグラフを提示する。最新の本が一番売れると仮定すれば、前年の本はそれより販売点数は減少し、前々年はさらにそれより販売点数は低下する。それを繰り返すとロングテール状のグラフになると想像される。②の取次経由の本の判定には、出版社からトーハンと日本出版販売の両取次に日々運び込まれる書籍を実際に見て作成される日外アソシエーツの「BOOK」データベースを利用する。③については書籍データベースである図書館流通センターの「TRC MARC」の別置コードを用いて分析を行う。
 
3.結果と考察
 A書店で2年間に1回(1冊)でも販売された本は延べ971,778点である。出版社は延べ7,796社である。出版年を横軸、販売点数を縦軸にグラフを描くと、古くは1927年から始まり、2000年代から徐々に増え始め、2014年、2015年をピークに、想像通り逆ロングテールを描いたのが確認できた。出版年で区切ると、1927~1945年「152」点(0.0%)、1946~1999年「66,761」点(6.9%)、2000年以降「901,626」点(92.8%)、不明「3,239」点(0.3%)である。
 出版年代別の販売点数を検討していくと、1960年代までは戦前からある老舗出版社が上位を占める。書名から判断するとロングセラー書籍と考えられる。1970年代と1980年代は、当時の新興の出版社が入り、1990年代以降は現在の出版点数上位社とほぼ変わらない顔触れとなった。
 どんな本が売れ、売れなかったのかの確認のため、取次扱い点数とA書店販売実績を、「TRC MARC」の別置コードで検討した結果、当該コードに属する本がほぼ9割超の販売実績があった。その一方で、子供向け本とムックの販売実績が8割台、楽譜のそれが3割と低いことも判明した。楽譜に限れば、店頭に並ばなかったことも考えられるが、ナショナルチェーンであっても不得意な分野があると考えられる。
 
4.結論
 出版年を横軸、販売点数を縦軸にした表において逆ロングテール現象を確認した。①の課題:棚に並べば、少し前の本どころか古くは1927年、戦前に出版された本でも売れる、②③の課題:2014年と2015年に限定すると、取次経由で扱われた本はほぼ書棚に並んでいると考えられ、約94%の本が販売されたが、販売するのに不得意と思われる分野も散見された。
 
5.質疑応答
 Q1:A書店の床面積はどのくらいか。A1:回答できず。(後日調べた所、全店舗の売り場面積の合計は不明だが、1千坪超の店舗は2店あることが分かった)。Q2:都市型書店か郊外型書店か。A2:都市型書店である。Q3:購買意欲を促す書店フェア等のイベントがあるが、書店利用者の購買行動は調査を行ったのか。A3:今回の研究は提供されたデータのみで行ったため、インタビュー調査等は行っていない。今後の研究の方向性のヒントとして考慮したい。