「電子出版を活用した学校教育・大学教育の新展開」湯浅俊彦(2019年11月30日、秋季研究発表会)

電子出版を活用した学校教育・大学教育の新展開
――追手門学院の事例研究

 湯浅俊彦
 (追手門学院大学国際教養学部)

 
1.研究目的と研究方法
 本発表は、2019年4月から追手門学院において開始された電子出版を活用した小学校、中学校、高等学校、大学における授業の取り組み事例から、これからの学校教育・大学教育と電子出版との関係を探求するものである。黒板を使った講義形式、そして紙媒体の教科書・教材をを中心に続けられてきたこれまでの授業が、児童・生徒・学生が1人1台のデバイスを持ち(BYOD=Bring Your Own Device)、校内にWi-Fi環境を整備し、ユビキタスな情報環境を提供することによって、電子図書館活用型の教育へ変化し、教育の質的転換にどのような効果をもたらすのかを探求する。
 そのため、2019年4月に始まった追手門学院の小学校、中学校・高等学校、大学における電子図書館サービスの実態調査を行い、電子出版を活用することによって、どのような教育的効果がもたらされるのかを検討する。
 
2.追手門学院における電子図書館サービス
 追手門学院では2019年4月から電子図書館サービス「LibrariE」を導入し、追手門学院小学校100冊、追手門学院茨木中学校・高等学校500冊、追手門学院大手前中学校・高等学校500冊、追手門学院大学2,000冊の電子図書を児童、生徒、学生に提供している。小学校だけは独自のサイトになっており100冊を1週間の貸出期限で読むことができ、それ以外の中学校・高等学校と大学は共通のプラットフォームであるため、合計3,000冊を2週間にわたり貸出サービスを受けることが可能である。
 追手門学院小学校では4月から現在まで、原則毎週木曜日午前中、電子図書館担当の追手門学院中高・国語科教諭/司書教諭が小学校に出張し、電子図書館に関する児童の質問を受け、使い方を指導している。導入直後には毎週木曜日に3年生から6年生の児童を対象に電子図書館のオリエンテーションを実施した。
 小学校の教員によると、電子図書館を導入した結果、授業において図鑑や挿絵など視覚的にとらえることに効果を発揮しているという。
 
3.教育における「知の還流構造」を電子図書館を使って創出する
 ここで重要なことは、これからの学校教育・大学教育における電子図書館の活用方法は、単に紙媒体の図書や雑誌を電子媒体に変換したということではないという点である。論点を整理すると以下のようになる。
(1)「電子図書館サービス」を導入するということは、決して、紙の本を電子化して読むということにとどまらず、
(2)「商業出版物」や「非商業出版物」、「図書」と「雑誌」といった長年私たちが慣れ親しんできた紙媒体を前提とした出版流通システムや出版メディアそのものを変革する、
(3)つまり、著作物をデータベース化することによって知識情報基盤を構築して新しい発見可能性を生み出し、
(4)児童・生徒・学生たちがそれを利用し、
(5)新たな知見を生み出し、
(6)その成果を電子図書館にアーカイブしていくという還流構造を作り出していくことに、
(7)学校が当事者としてかかわっていくことを意味している。
 
4.今後の課題
 2019年4月から開始した追手門学院の電子図書館サービスはまだ始まったばかりである。したがって、タイトル数も少なく利用頻度もこれから伸びていく途上にあるといってよいだろう。今後、利用者の成果物など独自資料のアップロードによって、アクセス数の制限のないタイトルが一気に伸びていくことが予想され、従来の図書館の商業出版物が中心という資料構成の概念が変化していくだろう。このことは2020年度に改めて詳細な調査を行い、研究を深めたいと考えている。