紙の本と電子書籍についてのWebによる意識調査  矢口博之 (2010年4月 春季研究発表会)

■紙の本と電子書籍についてのWebによる意識調査
 (2010年4月 春季研究発表会)

 矢口博之

 近年,米国では電子書籍市場が拡大を続けており読書端末の普及も進んでいる。日本における最近の電子書籍に関する動向にも活発な動きがみられるが,これまではなかなか普及してこなかった。日本で電子書籍が普及しなかった理由としては様々な要因が考えられるが,そのひとつとして日本人の持つ本に対するメンタリティも影響しているのではないかと考えられる。そこで本研究では,読書傾向と電子書籍に関するWeb調査を(株)東京サーベイ・リサーチの協力を得て2010年01月08日17:00~12日09:00にかけて実施し,約400件の回答を得て分析を行った。
 Q1,Q2では,単行本,新書,文庫など書籍の形態ごとに過去3カ月間の講読冊数と購入冊数を尋ねている。過去3カ月としたのは,1か月単位だと結果が安定せず,3カ月を超えると記憶があいまいになると考えたためである。調査の結果,書籍の形態ごとの平均講読冊数(購入冊数)は,単行本:4.2(2.44),新書:2.96(2.33),文庫:3.95(3.37),月刊誌:3.21(2.54),週刊誌:7.38(7.22),コミック:11.16(7.94),写真集:1.64(1.70),その他:5.07(2.55)で,本を読まないと答えた人は3.8%であった。
 Q6の「読書に関する意見・行動」においては,「同じ本を2冊以上購入し,読まずに保存しているものがある」人は8.5%であった。「内容を知っているのに本を購入したことがある」のは,男性54.2%,女性60.0%。「書棚に本が並んでいるのを見るとうれしく感じる」人は,10代が最も多く58.8%だが,40代にかけて年齢が上がるに伴い減少傾向がみられる。「装丁やデザインが気に入って本を購入したことがある」人は女性が37.3%,男性は18.2%であった。「読みたい本はすぐに購入する」人は,女性は全年齢でほぼ40%であるのに対し,男性では30代70.0%,60代62.2%と多い年齢層があった。
 Q7の不要な本に対する行動を見ると,10代,20代と60代は,紙の本を大切にする傾向がみられる。逆に30代から40代の,特に男性については紙の本をそれほど大切にしていない様子が伺える。それでも捨てるよりも譲渡することが多く,捨てるにしても通常のごみでなく資源ごみとして捨てている方が多いことがわかる。
 Q8の電子書籍認知度については,「はじめて聞いた」が6.8%,「聞いたことがあるが,内容までは知らない」が38.8%,「内容は知っているが,利用した(読んだ)ことはない」が44.4%で内容はともかく電子書籍の認知度はかなり高いことがわかる。さらに「すでに利用した(読んだ)ことがある」人も10.0%いた。
 しかし具体的な製品名(Q10)の認知度になると「アマゾン・キンドル」が最も多く25.3%であったが,「知っているものはひとつもない」人も68.9%いた。
 Q9の電子書籍の利用意向では,「ぜひ利用したい」3.3%,「まあ利用してもよい」27.8%,「どちらともいえない」30.8%,「あまり利用したいと思わない」26.6%,「まったく利用したいと思わない」11.5%と,利用したくない人の方が多い結果となった。電子書籍の利用に積極的なのが30代と50代の男性,逆にあまり積極的でないのは,10代と30代の女性であった。
 Q13の電子書籍に関する意見は,「紙の本で十分だ」46.1%,「ディスプレイの画面表示が見にくそうだ」38.1%,「紙の本と違って,本を読む満足感が得られない」37.8%,「紙の本と違って,本を所有する満足感が得られない」27.3%,「入手できる電子書籍の数が少なそう」22.1%,「パソコンで十分だ」18.5%という意見が続く。しかし「携帯電話(スマートフォン除く)で十分だ」8.0%を始め,他の電子デバイスで代替可能であるという意見は少数であった。
 Q14の「紙の書籍の時代が終わり,次第に電子書籍の時代になるだろう」という意見については,「非常にそう思う」3.0%,「そう思う」14.3%と完全肯定派よりも,「あまりそうは思わない」35.6%,「まったくそうは思わない」7.8%という否定派の方が多いものの,「いずれもが共存すると思う」32.1%という考えが最も多いことがわかった。また自由記述に対する反応も高く,92.8%が何らかの意思表示をしたことも,電子書籍に関する関心の高さをうかがわせる。
 全体的な傾向として,日本人は紙の本に対する強いメンタリティを持っており,それが電子書籍に対するネガティブな反応を引き起こしていることを伺わせる調査結果となった。今後は,今回の調査結果についてさらに分析を進めるとともに,紙の本に対するメンタリティの日米比較なども行いたいと考えている。