「「ライトノベルの一源流」としてのソノラマ文庫」山中智省(2020年9月12日、春秋合同研究発表会)

「ライトノベルの一源流」としてのソノラマ文庫
 ――メディア史的アプローチからの再検証

 山中智省
 (目白大学)

 
 本発表では、1975年に朝日ソノラマが創刊したソノラマ文庫を“ライトノベルのメディア史”に位置づけた上で、同文庫が「出版メディアとしてのライトノベル」の特質を形成・獲得していった過程や背景の再検証を行った。具体的には、ライトノベルの萌芽・誕生期である1970~80年代を射程に、メディア史的な観点を導入したアプローチにより、ソノラマ文庫が同時代の若年層向けエンターテインメント小説に残した成果や課題をふり返りつつ、同文庫が「ライトノベルの一源流」となり得た要因に迫っている。
 ライトノベルは現在、一般には「マンガ・アニメ風のキャラクターイラストをはじめとしたビジュアル要素を伴って出版される若年層向けエンターテインメント小説」として広く認知されている。その起源をいつ/どこに定めるのかは諸説あるが、現状では1970年代に登場してきた秋元文庫、ソノラマ文庫、コバルト文庫などを源流と見なす説が有力視されており、これらを起点に著名な作家、作品、ジャンル等の系譜をたどった“ライトノベル史”の成果も数多い。
 こうしたなか発表者は、現代の少年・少女小説の維持に関与した出版メディアである文庫の歴史に着目した玉川博章「現代における青少年向け書籍の発展――ヤングアダルト文庫出版史」(『出版研究』第35号、日本出版学会、2005年3月)や、ライトノベルを「複合的な文化現象」と捉えた――柳廣孝・久米依子編著『ライトノベル研究序説』(青弓社、2009年)の問題意識を踏襲し、ライトノベルを「多彩なジャンル、メディア、文化を複合させた活字コンテンツを戦略的かつ積極的に生み出し、若年層を小説の読者や作者として獲得することを企図した出版メディア」であると見なしている。その上で、長らくライトノベルの主流を占めてきた文庫を想定しつつ、現代日本の「小説」や「文学」の成立に関わってきた既存の出版メディアに対して、新たに何が、どのような経緯で複合を果たし、「出版メディアとしてのライトノベル」が誕生・発展してきたのかを、“ライトノベルのメディア史”として把握することを試みている状況にある。
 以上の取り組みの一環である本発表は、前述したソノラマ文庫を主要な調査・分析対象に据えている。ソノラマ文庫は、朝日ソノラマがソノシートに代わる新たな主力メディアとして活字(書籍)への進出を求めたなかで、同文庫の前身であるサンヤングシリーズを経由して創刊された。当初は従来の少年小説・ジュブナイルの色合いが強く、既存作品の再刊も目立っていたが、新人作家の起用に力を入れ始めると、ラインナップは書き下ろし中心へとシフトしていく。そして、同時代の他/多メディアとのつながりや、高千穂遙、菊地秀行、夢枕獏、笹本祐一といった気鋭作家の作品の登場などを追い風に、ソノラマ文庫は「出版メディアとしてのライトノベル」としての特質を形成・獲得していくこととなる。本発表ではその過程の具体相を、同文庫の編集者や作家といった送り手の証言や、各種文献資料を手がかりとしながら、主に以下のポイントに着目した検証作業を行った。

①:既存の文庫に対して多彩なジャンル、メディア、文化がどのように複合を果たしてきたのか?
②:若年層を小説の読者や作者としていかに獲得してきたのか?
③:①と②のなかで、活字コンテンツの送り手の戦略性や積極性は、どの程度認められるのか?

 特筆すべきなのは、版元の朝日ソノラマがソノシート全盛期以来、アニメ・マンガ・特撮的な諸要素を活字分野へと容易に取り入れられる環境に恵まれており、作家の人材確保や作品供給などの面で有利な展開が可能だったことだろう。そして、この好環境はサンヤングシリーズに加え、後続のソノラマ文庫の強みにもなり、これを原動力に同文庫は新たな作家・作品を輩出しつつ、「出版メディアとしてのライトノベル」の特質を徐々に獲得した結果、1970~80年代の若年層向けエンターテインメント小説の牽引役を担ったと考えられる。一方、創刊当時から編集長を務めた石井進が、「朝日ソノラマは(中略)、たまたまテレビ業界と密接な関係があり、人材的にもSFの方々と接触がありました。ソノラマ文庫はそういうところから始まったことで、たまたまうまくいったんだと思います。でも、うまくいった要因をしっかりと把握して、もっと大木に育てればよかったんだけれども」と述べているように、若年層を小説の読者や作者として獲得するための「送り手の戦略性や積極性」という点では課題も見受けられた。また、この点が特に1980年代後半以降、角川書店をはじめとする他社の文庫レーベルとの競合のなか、ソノラマ文庫が新規読者の開拓などで苦戦する一因になったと推察されるのである。
 なお、本発表はJSPS科学研究費補助金20K12927の助成を受けたものである。