「出版文献データベース考察」伊藤民雄(2020年9月12日、春秋合同研究発表会)

出版文献データベース考察
――古山悟由編「90年代・出版関係雑誌文献目録(稿)」を利用して

 伊藤民雄
 (実践女子大学図書館)

 
 本発表は、『出版ニュース』の休刊により提供されなくなった「出版関係文献資料」の代替データベースに求められる要件を過去に求め、『出版研究』の32~34号(2001~2003)に、3回連載で掲載された古山悟由編「90年代・出版関係雑誌文献目録(稿)」を題材にして考察を行った。
 
1.研究の背景
 『出版ニュース』には雑誌記事索引的存在である「出版関係文献資料」が提供されており、4月から3月までの1年分が累積され『出版年鑑』に掲載されることでアーカイブ的機能を担っていた。休刊による先行論文や事例を把握する手段の喪失は、いずれは出版教育・研究の展開に影響を及ぼすものと考えられる。
 
2.研究の問題点
 発表者が所属する図書館業界を単純化すると研究者と図書館員から構成されるのに対し、出版業界は業界三者に留まらず、印刷業、製本業、マスコミ・ジャーナリズム、広告、編集・デザイン等の業界が広く関係するため、どこまでを出版業界として文献収集の範囲とするか、迷う所である。また、収集されるべきコア雑誌、重要著者などを即答することは容易ではない。
 
3.研究目的
 ①出版関係文献の雑誌記事データから、雑誌の収集分野や範囲を割り出すこと、②文献量から、出版研究の全体像と変化の概要だけでなく、レビュー論文と同様の結論を導き出すことができるか、以上2点を設定した。
 
4.研究手法
 2000年以降にはまとまった文献リストが存在しないため、古山悟由編「90年代・出版関係雑誌文献目録(稿)」を電子データとしてリスト化した。続いて、先行研究との比較から分類で使用されている大項目の検討を行い、雑誌名、雑誌の属性、著者名、論題キーワード切り出しで分析を行った。さらに『出版研究』31号から33号に掲載された1990年代の各分野別のレビュー論文で指摘された事項が文献量や論題で導けるかを確認した。
 
5.結果
 先行研究との比較の結果、大項目(カテゴリ)は大凡20項目になることが分かった。データ整備の結果、1990年から1999年までの古山のデータ件数は7,102件となった。採録誌数は1,368誌にのぼり、出版・印刷等51誌3,130件、大学・研究所紀要544誌989件であり、図書館情報学53誌476件、国文学専門誌18誌352件と、以上で約7割の文献が収録されていた。
 『出版ニュース』から501件(占有率7%)採取されていた。文献採取数は、1,368誌のうち採録数上位10誌までは出版・印刷関係の雑誌がほぼ占めたが、5位には無関係とも思える『国文学:解釈と教材の研究』が入っていた。ここで採録上位誌の全体に対する採録件数の占有率を調べたところ、上位10誌までで2,216件(31%)、同20誌までで2,839件(40%)、同102誌までで4,659件(66%)、同203誌までで5,324件(75%)と、15%の雑誌で75%の文献が得られており、20:80の法則が成立した。数字的には文献数の8割を得たい場合、最低200誌は必要である。
 論文記事発表年の推移では、1992年のみ600件を下回っていたが、それ以外は700件前後の文献が掲載されており、毎年一定数の文献が産出されている。大項目17分野別の論文記事発表年の推移では、優勢なのが「歴史」(出版史)研究(占有率約15%、近世731件、明治以降365件)、続いて、「雑誌」(約13%)、「海外」(約11%)の順である。「歴史」と「雑誌」は1996年をピークに文献数は減少し、最終的に「総論」、「海外」、「出版社・書店」に逆転されていた。
 レビュー論文での指摘事項については、すべてではないが文献量で確認できる分野が判明した。特に近世までの出版史研究においては、国文学と出版は一見無関係のように見えるが、国文学関係雑誌が発表の舞台となっていること、また法制史研究においては出版・印刷関係雑誌だけでなく法学・法律雑誌にも掲載されており、留意が必要である。研究に利用したレビュー論文に、「幅広く学協会誌や紀要に掲載された論文まで検討するのは時間的制約からできなかった」と書いた評者が2名おり、研究者の研究時間を節約する点で、やはり網羅的なリストは必要と考えられる。
 
6.まとめ
 文献の網羅性から200誌程度の採録誌、類似文献の分類から20分野のカテゴリ、留意すべき周辺分野の領域は分かったが、分析に利用したのが『出版ニュース』を中心とする1990年代の文献のため、同誌休刊のため2020年代には通用しない。多くの知見が得られた一方で、筆者個人で出版文献データベースを考えることは容易ではなく、研究者の指導・助言が必要である。しかるべき場、2021年度以降のワークショップ等を通じて、広く研究者・専門家に問題提起し、「出版関係文献資料」に代わるデータベースを実現したい。
 
(質疑応答)
 留意する雑誌について、出版史研究においては国文学雑誌だけでなく史学系雑誌(歴史雑誌)、別の分野についてもメディア系雑誌、教育系雑誌や総合誌にも目配りが必要である、との意見が出された。まさにその通りである。