《ワークショップ》「出版の教育・研究を支える出版学文献データベース構築の必要性について」(2021年5月8日、春季研究発表会)

出版教育研究部会:
出版の教育・研究を支える出版学文献データベース構築の必要性について

司会者・問題提起者:
    伊藤民雄(実践女子大学図書館)
討論者:伊藤民雄(同上)
    古山悟由(國學院大學図書館)
    小林昌樹(元国立国会図書館)

 
 優れた教育・研究活動を行うには、対象となる実践事例や先行研究の調査が必須である。多くの学会誌・専門誌において新刊情報や文献紹介が定期的に行われている。出版学(出版研究、publishing studies)においては、出版業界誌の『出版ニュース』に連載される「出版関係文献資料」(累積され『出版年鑑』掲載)が相当するが、その休刊により、現在、「出版」を題材にしたカレントな文献索引・リストが存在しない。長期的に見れば、教育研究における調査の精粗にむらを生じさせ、最終的に成果物の質に影響を与える可能性がある。
 本ワークショップの目的は、①「出版」をテーマにした雑誌文献リスト・索引の作成と実際の作成過程等を紹介すること、②研究者・大学院生・大学生の研究を支援(時間短縮等)し、異なる領域研究への新規参入も行いやすくするような「出版学文献データベース」についての要不要、可能性を討論することである。
 
問題提起概要(伊藤)
 先述した本ワークショップの目的を述べた後に、今回の議論や文献採取の対象となる出版学・出版業界の範囲を、『白書出版産業2010』、箕輪成男『出版学序説』(日本エディタースクール出版部)、「出版関係文献資料」と研究者による出版学のカテゴリ分けを図示して説明を行った。
 
討論者発表概要
①小林「戦前期出版関係記事のカレント的リスト」
 小林氏は、出版学文献データベースの採録対象とすべきは、業界や商品製造についての記事、即ち「出版関係記事」のメタデータであると指摘し、沼津・古典社の『図書週報』(1930-1942)に連載された「書誌関係雑誌新聞記事索引」から始まる戦前期の出版関係記事リスト(カレント索引)、昭和10年代前半の書物雑誌の位相の説明を行った。続いてカレント索引や雑誌新聞の復刻版が例示され、データ入力等の論点が指摘された。最後に専門書誌の得失事項として、「主題検索」、「不採録の記事」がそれぞれ挙げられた。
 
②古山「遡及的記事索引の作成:90年代・出版関係雑誌文献目録(稿)の作成」
 古山氏から、「90年代・出版関係雑誌文献目録(稿)」(『出版研究』32~34巻)は、1989年から日本出版学会賞候補選出のために作成している「出版関係の著作・論文リスト」が基になっていることが述べられた。続いて同目録の構成(カテゴリ分け)、記事採取に当っての参考資料(書誌、索引、目録類)と記事採取のために使用した主要キーワードが説明され、最後に、目録作成・利用の懸念点として、対象資料の所蔵の問題点が挙げられた。問題点として挙がった『出版ニュース』と『日販通信』の大学図書館所蔵数は、それぞれ「182館」と「3館」で欠号なしの全巻所蔵館はない。一方で、出版で重要と思われる雑誌が「雑誌記事索引」の採録対象外であったり、出版社PR誌がどの程度の図書館で所蔵されているのか等である。
 
③伊藤「清田義昭氏 出版ニュース社の「出版関係文献資料」について」
 清田氏への聞取調査は、『出版ニュース』において「出版関係文献資料」を誰がどのように作っていたのか?という問いに対し回答を得るために、伊藤が2021年3月30日と4月20日の2回にわたって電話を使って行った。聞取結果としては、作業者は社外に頼んで関係誌のチェックを依頼していた。制限事項として同誌内で同資料は頁固定(4頁)であるため、網羅的ではない。そのため特集記事を割愛することが多く、原稿があがってきた段階でチェックを行い取捨選択したものが掲載された。採録誌については、20年程前から固定し、それ以前は固定せず幅広い記事が入っている、とのことだった。(聞取調査後、『出版年鑑』の1994年版、2007年版の採録誌を調べたところ、それぞれ122誌、54誌だった)。
 
討論概要
 各発表をベースに、4点について議論を行った。①そもそも研究者、院生・学生は、「出版関係文献資料」(=カレント索引)の代替資料を必要としているのか否か。②代替資料が必要とされる場合、どのような提供方法(データベース、RSS配信、冊子体索引等)が望まれているか、好まれているか。③代替資料として必要とされるのは、選択的索引か、それとも網羅的索引か。④研究素材、史料となり得る紙索引、索引化・総目次化されていない情報の遡及入力は必要か否か、である。採録外となっている重要な出版関係誌の「雑誌記事索引」への働きかけ、図書館所蔵へのアクセス、時間や手間を掛けずに遡及作業を行うために既存の書誌データや目録類を使う事等が意見として挙がり、最後に伊藤自身が「出版関係文献資料」の採録対象でありながら、「雑誌記事索引」の採録から漏れている出版関係重要6誌の索引化、及び後継目録を作ることを宣言して討論を終了した。
(文責:伊藤民雄)