「「テレビブロス」に見る、テレビ情報誌の“雑誌”としての挑戦」平松恵一郎(2021年5月8日、春季研究発表会)

「テレビブロス」に見る、テレビ情報誌の“雑誌”としての挑戦

 平松恵一郎
 (東京経済大学大学院コミュニケーション学研究科博士後期課程)

 
1.はじめに
 1987年に『TV Bros.(テレビブロス)』をはじめ、『TV station(テレビステーション)』『TVぴあ』といった隔週刊のテレビ情報誌が相次いで創刊された。すでに創刊していた『TeLePAL(テレパル)』と合わせて、この年、隔週刊テレビ情報誌は一気に4誌となった。その背景には、家庭用ビデオデッキの普及が考えられる。内閣府の資料によれば、その普及率は1987年には43%となっており、一般的となってきた番組予約録画のためにこれまでの週刊誌より長い期間の番組表が求められていた。そんな隔週刊テレビ情報誌のなかで、特に個性的だった雑誌が『テレビブロス』である。テレビ情報誌の歴史において、『テレビブロス』の創刊が持つ意味を考えてみたい。
 
2.隔週刊テレビ情報誌の歴史
 最初の隔週刊テレビ情報誌は、1982年12月に小学館から創刊された『テレパル』である。ビデオ録画を楽しむ若者にターゲットを絞り、2週間分デイリー番組表のほか、ジャンル別エアチェックスケジュール表等を掲載、ビデオ録画に特化した内容だった。『テレパル』に続いて1987年7月に『テレビブロス』(東京ニュース通信社)が創刊、同年9月に『テレビステーション』(ダイヤモンド社)、12月に『TVぴあ』(ぴあ)が創刊した。先行する『テレパル』同様、番組予約録画を強く意識しており、『テレビステーション』は、カラー番組表や、「特選映画レーベル」を掲載し、『TVぴあ』は、VIDEO & TV CLUBという企画を掲載していた。
 一方『テレビブロス』は、映画を中心にジャンル別の番組紹介ページは掲載していたが、テレビとは直接関係のない特集やコラム等も多く、テレビ情報誌というより、“テレビ番組表が載っている雑誌”といった趣であった。
 
3.テレビブロス創刊の背景
 『テレビブロス』の版元である東京ニュース通信社は、1962年に『週刊TVガイド』を創刊している。同社は1973年より新聞社へのラジオ・テレビ欄配信業務をスタートし、テレビ番組表制作を中心に成長していくが、テレビ情報誌は『週刊TVガイド』以外発行していなかった。しかし1987年、『週刊TVガイド』創刊25周年の年に、ついに2つ目のテレビ情報誌として、隔週刊テレビ情報誌『テレビブロス』を創刊した。創刊のコンセプトは「若い視聴者のリアクションを切り取った、読者の“共感マガジン”」で、『週刊TVガイド』とは全く違う位置づけであった。編集アドバイザーに泉麻人といとうせいこうを迎え、若い読者の共感を集める書き手によるコラムが連載された。定価は150円で、2週間分のテレビ番組表(2色刷り)とジャンル別番組解説以外は、ほぼテレビとは関係のない記事も多かった。創刊号から1周年号までの27号のうち、テレビに関する特集は11号分で、全体の約4割である。テレビ関連の特集といっても、たとえば「1999 究極のTVメニュー」(1988年5月14日号)といった近未来の架空のテレビ番組表を作る企画など、いわゆるストレートな番組紹介とは一線を画すようなものも多かった。また、『テレビブロス』は、その販売戦略のテーマとして、コンビニエンス・ストアで売れる雑誌にしたいというものがあり、1987年10月10日号から、泉麻人・いとうせいこうによる「コンビニエンス物語」という連載がスタートしたほか、創刊1周年号である1988年7月9日号では「僕らはコンビニ探検隊」という8ページ特集をカラーで掲載している。
 
4.テレビ情報誌の方向性
 そんな独自の路線を行く『テレビブロス』は、読者から一定の評価を受け、1989年に関西版と中部版を創刊、1992年には北海道版と九州版を創刊し、全国5地区体制となった。コラム雑誌やサブカルチャー雑誌に近かった『テレビブロス』であったが、同誌以外にも、1990年代になると、ある特定のジャンルに特化したテレビ情報誌が誕生する。1991年にギャガ・コミュニケーションズがスポーツ関連の番組情報を掲載した『SPORTS GAGA(スポーツ・ガガ)』を創刊、1997年にアクセラがゲーム情報にテレビ番組表がついた『週刊TV Gamer』を創刊、1999年には角川書店が主婦向け情報誌とテレビ情報誌が合体した『月刊ミセスザテレビジョンしってる?』を創刊するなど、テレビ情報だけではないテレビ情報誌が複数誕生した。しかし、現在、地上波のテレビ番組表を掲載したテレビ情報誌の中で、以前のような特定のジャンルに特化したものはない。
 
5.おわりに
 『テレビブロス』は2018年に月刊誌となり番組表の掲載を中止、「様々なカルチャーを独自な切り口で紹介する新型テレビ誌」として発行を続けたが、2020年6月号をもって定期誌としての刊行を休止し、不定期刊とWebでの展開にシフトした。“共感マガジン”というコンセプトは、ネットもSNSもなかった時代と現在では、その役割もだいぶ変化している。
 現在、書店流通しているテレビ情報誌は、番組紹介とテレビに出るアイドルやスターのグラビア中心の構成が目立つ。それが現在求められているテレビ情報誌の形ということであろう。