「紙の本」と「電子の本」の近未来 下村昭夫 (2012年3月15日)

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 出版流通研究部会発表要旨(2012年3月15日)


「紙の本」と「電子の本」の近未来

■ 下村昭夫

 黒船上陸と騒がれた2010年、出版界を揺るがせたようにも見えるが、電子書籍の市場規模は650億円程度で、ブームが過ぎ去ってみれば、新しいコンテンツが劇的に増えたわけでもなし、出版状況が激変したわけでもない。紙の本は、極めて「堅実、堅調」を維持している。
 しかし、出版業界の電子書籍に対する関心は依然として“高く”且つ“真剣”でもある。そこで、改めて、業界紙が伝えた“「紙の本」と「電子の本」の近未来”を分析し、さまざまな出版産業データで検証してみることにしたい。


1. 「紙の本」の市場
 
出版科学研究所のデータによれば、2011年の取次ルートを経由した出版物の推定販売金額は、前年比3.8%減の1兆8042億円(減少額550億円)で7年連続のマイナスとなった(『出版月報2011/01』による)。
 書籍は同0.2%減の8192億円で4年連続、雑誌は同6.6%減の9844億円で、連続14年の前年割れ、27年ぶりに1兆円割れとなった。
書籍の状況は、『謎解きはディナーのあとで』(東川篤哉、小学館)、『DVD付き樫木式カーヴィーダンスで即やせる!』(樫木裕実、学研パブリッシング)、『体脂肪計タニタの社員食堂』(タニタ、大和書房)、『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(長谷部誠、幻冬舎)、『老いの才覚』(曽野綾子、 ベストセラーズ)など 、計10点のミリオンセラーが誕生したが、「売れる本」と「それ以外の本」の二極化か顕著だった。
 雑誌の内訳は、月刊誌(週刊誌を除くすべての雑誌)同6.2%減の7729億円、週刊誌は同7.8%減の2115億円となった。
 雑誌の銘柄点数は96年比で3.6%増の3376点であったが、発行部数は、同41.2%減の30億1732万冊と多品種少生産の小ロットの傾向が顕著だ。雑誌は、販売金額が過去最高の落ち幅で、販売部数も最盛期だった95年の約半数となり、1976年以来の20億冊割れになった。
 1960年代から1975年までは2桁成長、1976年から1996年までは1桁成長、98年からマイナス成長となっている。出版の推定売上が1兆円を突破したのが1976年、2兆円を突破したのが1989年のことである。
 1976年に、雑誌の売上げが書籍の売上げを追い越し「雑高書低」となり、雑誌が、出版産業の成長の推進力となった。
 80年代の10年間の出版産業の成長率は40.4%、90年代の10年間の成長率は、5.1%で、98年からは、マイナス成長となり、以後、長期低迷状態であるが、書籍の売上は、極めて「堅調」であるともいえる。

2.「電子本」の市場
 
 『電子書籍ビジネス調査報告書2011』(インプレス)によると、2010 年度の電子書籍の市場規模は、約650 億円(対前年比13.2%増)と推計されている。内訳はPC向けが約53 億円(対前年比3.6%減)と縮小したのに対し、ケータイ系は約572 億円(対前年比11.5%増)となっている。2009 年から推計を始めたスマートフォン、タブレット端末、電子ブックリーダーといった新しいプラットフォーム向け市場は約24 億円(対前年比400%)となった。2010 年は電子書籍元年と騒がれた年であったが、市場規模でみる限り、依然としてコミックを中心とするケータイ系向けコンテンツが、電子書籍の市場規模650 億円のうちの88%に当たる572 億円を占めている。
 新プラットフォーム向けの電子書籍の市場規模は、2015 年には2010 年の3 倍程度の2000 億円に達すると予測されており、iPad、キンドル、ヌークなどのアメリカ型電子書籍端末とソニー・リーダーをはじめとする日本型電子書籍端末が市場で激突する構図である。一方、2010 年の電子雑誌の市場規模は6 億円程度とされているが、2015 年度には200 億円程度に成長すると予測されている。電子書籍と電子雑誌を合わせた電子出版の市場規模は2200 億円程度で、出版市場全体の10%に成長するものと予測されている。
 これらの産業状況の変化に対応するため、2010 年2 月に講談社、小学館、文藝春秋をはじめとする大手出版社を中心に「日本電子書籍出版社協会」が設立され、2010年7 月には大日本印刷、凸版印刷などが「電子出版制作・流通協議会」を設立した。
また、2011 年4 月には「出版デジタル機構」が発足し、「データの作成・保管・配信業務など電子出版ビジネスを包括的サポート」「出版物へのアクセスの確保」「図書館と出版社のあり方」「権利処理」の対応に当たることになった。
 なお、「電子書籍交換フォーマットの標準化」「EPUB日本語拡張仕様策定」など技術的な課題とともに電子書籍の流通など業界全体の課題も多い。

 6年間「出版流通研究部会」を担当した下村昭夫部会長の報告は、この3年間の電子書籍の動向を業界紙の報道を克明に辿りながら、「紙の本」と「電子の本」の近未来を予測するものであった。『会報』での紹介は、その一部に過ぎないことをお断りしておく。 
参加者45名、うち講師・会員25名、一般参加者20名(会場:日本大学法学部本館3階339講堂)。  (文責:出版流通研究部会)

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