■ 日本出版学会出版教育研究部会/実践女子大学図書館〔共催〕
開催要旨 (2021年11月10日開催)
「海外の書店について語る」
ナカムラ クニオ (ブックカフェ「6次元」店主)
森啓次郎(株式会社紀伊國屋書店取締役副社長)
伊藤民雄(実践女子大学図書館)*司会
1.はじめに
日本と他国の書店の比較を通して、書店業界の理解を深めることを目的に、アートディレクターでライター、ブックカフェ「6次元」の店主でもあるナカムラクニオ氏、及び紀伊國屋書店取締役副社長の森啓次郎氏の二人をお迎えし、一読者としての立場から、書店経営者の立場から、世界の書店を語っていただいた。
お二人に講師依頼をしたのは、ナカムラクニオ氏が2019年に上梓した『世界の本屋さんめぐり』(産業編集センター)は、伊藤著の『世界の出版情報調査総覧』(日本図書館協会 2010)で紹介されている世界の書店を巡ってきたという裏話があること、一方、森氏については、1977年に紀伊國屋書店に就職後すぐにサンフランシスコとロサンゼルスの両支店に合計6年間駐在し、その後1983年からアジア地区を担当して、シンガポールをはじめ数多くの店舗の開店に尽力されてきたことが、その理由である。
2.ナカムラクニオ氏「世界の本屋さんめぐり」
「本屋を見れば、その国がわかる!旅に行ったら、本屋を楽しむ」というナカムラ氏が、コロナ禍のなか訪問し撮影したアメリカ、中国、台湾、スウェーデン、デンマーク、フィンランドの書店(新刊古書併設書店含む)や図書館の様子の写真を投影し、その場で感じたこと、得た知見、コメントを交えながら書店の最新情報が紹介された。投影された写真は、本を使ったアーチやオブジェ等の工夫されたユニークかつセンスのある陳列方法、ネット書店運営による最新鋭実店舗、思わず買いたくなるトートバッグ、お話会等のイベントなど、盛り沢山な内容であった。
3.森啓次郎氏「紀伊國屋書店の海外事業展開」
紀伊國屋書店は、「本との出会い 人との出会い」を社訓として事業展開しており、店舗数は、国内68、海外10ヵ国42店舗を数える。海外店舗は出向社員のほか、現地採用の正社員とパートで運営している。海外店トップであるシンガポール本店の売上は、日本の新宿本店、梅田本店に次ぐ規模になっている。ニューヨーク本店では壁面に描かれた日本の漫画家による巨大直筆画がアイキャッチャーとなっており、メディアによるマンハッタンの書店ランキングでは2位となった(1位は独立書店のStrand)。実は森氏の個人的お気に入りで目標にしてきた書店も超え感慨深かったとのこと。最近の事情としてベトナムと韓国の大手書店との業務提携、カンボジアへの初出店も紹介された。日本の書店の「国際化」において、紀伊國屋書店の果たす役割とその動向から目が離せないことに改めて気が付かされる講演だった。
4.議論(ディスカッション)
日本と海外の書店の違いを中心に、陳列方法にセンスを感じる書店、出店時に手強いと感じた現地書店、新卒者採用と海外店勤務、現地雇用の書店員教育についてお話しいただき、途中から聴講者からの質疑応答を交えての議論となった。聴講者からは書店内の写真撮影についての質問があり、海外ではSNSでの広報効果を考慮して来店者による書店内の撮影を解禁する書店が増えていることが回答され、関連して来店者自身が所有するフィギュアを書店内に持ち込んで撮影しSNS発信が行われている、との紹介があった。海外店での学術書の扱いの質問に対しては、店舗内空間の限界から外商で対応するとともに、学術書は元よりデジタル化が進んでいるとの回答があった。また、コロナ禍での巣籠りにより公共図書館にリモートアクセスする形での電子書籍の利用が増える一方で、紙の本の良さが再認識される形で需要が高まったこと、無人と有人の店舗がある場合は有人店舗が好まれることが分かってきたこと等、興味深い知見が紹介された。
日 時: 2021年11月10日(水) 午後3時~4時30分
会 場: Web会議システムZoomを利用したオンライン開催
参加者: 申込者109名 (会員16名、一般92名うち学生2名)
当日の聴講者は100名程度(推定)
本セミナーは、「図書館総合展2021」のポスターセッション枠を利用し開催した。
(文責:伊藤民雄)