2003年度活動報告(2003年4月~2004年3月まで)

2003年度活動報告(2003年4月~2004年3月まで)

■ 1.概 況

 日本出版学会創立34年目の活動は,まさに激動する国際情勢と深刻さを増す経済の中で継続された.日常生活の不安や新しい世紀において直面する様々な課題に対する回答提示の手段のひとつとしての出版はその意味と役割を増しつつも,生み出される産業としての経済的成果は必ずしも期待どおりのものではなかった.
 このような情勢の中においても,出版をめぐる研究活動は歴史や技術,法制やその他の様々な領域にわたって意欲的に継続され,多くの成果を生み出した.出版研究を専攻する研究者たちの成果は近年においては学位論文としても結実し,この分野における学位取得者も徐々に増加している.また,1867年~1996年における出版関係書目を集成した資料も刊行され,研究のための条件は次第に整備されつつある.国際交流の分野においても海外の学会やシンポジウムで発表を行う事例も増加し,それらの成果に対して各種の団体から評価される例も年々増加の傾向にある.
 日本学術会議の第19期登録団体として登録された当学会は,春季研究発表会を5月に東京で開催し,秋季研究発表会を12月に大阪で開催,いずれも大きな成功を収めることができた.また7月23日には,東京電機大学において,日本出版学会賞特別賞受賞を記念した講演と記録ビデオ『精興社の活版印刷技術』上映の集会を開催し,出版研究の様々な分野に意欲的に取り組むことができた.
 さらに,長年の懸案であった受託研究の分野においては,電子ペーパーに関する調査を受託し,出版企画においては,『白書出版産業―データとチャートで読む日本の出版』の刊行に向けた作業を行うことができた.また,懸案のウェブサイトも開設され,学会の概要はもちろん,随時開催される研究会の案内も迅速に行われることとなった.
 学会の会勢は,前記のように新入会員の継続的増加を見ているが,創立以来の年月の変化により,物故会員の発生や高齢化,その他の事情で退会する会員も相次ぎ,会員数の増加の抑制要因となっている.
 学会役員については,2004年度総会において改定された学会規約,および理事・監事選任細則に基づく最初の選挙が行われ,本総会に理事・監事候補者として提案が行われている.
 学会財政については、過去30年以上にわたって当学会を支援していただいている賛助会員の並々ならぬ協力により,専用事務所等の維持が可能となっているが,一部会員の会費納入の遅延等により,なお楽観の許されない情勢にある。
 一方,国際交流においては,当初2003年度に計画された第11回国際出版研究フォーラムが2004年10月に延期されたものの,既に発表者は決定されており,新年度において参加が予定されている.

■ 2.会員数

 正会員       374名
 賛助会員  法人    70社
       個人    6名

■ 3.総 会

 2003年度総会は,2003年5月17日(土),東京都千代田区の上智大学において172名(委任状を含む)の会員が出席,2002年度事業報告,同決算,同学会創立30周年記念事業決算,2003年度事業計画案,同予算案,同学会創立30周年記念事業予算案をそれぞれ審議・可決した.
 なお,第24回日本出版学会賞は,佐藤卓巳『「キング」の時代―国民大衆雑誌の公共性』(岩波書店)に授与され,あわせて,日本出版学会賞・奨励賞が、鳥越信編『はじめて学ぶ日本の絵本史III III』(ミネルヴァ書房)に,また,日本出版学会賞・特別賞が,箕輪成男『パピルスが伝えた文明―ギリシア・ローマの本屋たち』(出版ニュース社),および,森啓執筆『活版印刷技術調査報告書』(青梅市教育委員会)に授与された.

■ 4.理事会

 2003年度の会務を行うため,2003年度総会から本総会に至るまでの間,理事会を下記のとおり開催した.
 第1回: 2003年6月9日
 第2回: 2003年7月28日
 第3回: 2003年10月6日
 第4回: 2003年12月15日
 第5回: 2004年2月2日
 第6回: 2004年3月8日
 第7回: 2004年4月19 日
 第8回: 2004年5月15日

■ 5.調査研究委員会

 調査研究委員会は,主として各部会間の連絡調整にあたった.各部会の活動状況は次のとおりである.
(1)歴史部会
 2003年10月31日(日本エディタースクール)「佐藤春夫『詩集・魔女』校正本にみる本文の改変過程」居郷英司.
 2003年11月28日(日本エディタースクール)「近代日本文壇における著作権および剽窃問題について」堀啓子.
 2004年3月12日(日本エディタースクール)「江戸出版業界の利権をめぐる争い」柏崎順子.
(2)出版法制研究部会
 2003年7月11日(日本大学法学部6号館)「個人情報保護法に残された問題―国会審議からの検証―」笹田佳宏.
(3)出版流通研究部会
 2003年5月12日(八木書店会議室)「オンデマンド出版の現状と将来」鈴木仁.
 2003年10月20日(八木書店会議室)「貸本屋の現状」内記稔夫.
(4)出版技術研究部会
 2003年9月26日(字游工房)「電子文字開発の最前線から」鳥海修.
(5)雑誌研究部会
 2003年7月25日(東京電機大学)「『我が国の科学雑誌に関する調査』について」大沼清仁,デジタル出版研究部会と合同.
(6)出版教育研究部会
 2003年4月28日(日本エディタースクール)「職能教育とは―22年の『出版技術講座』を通じて」下村哲夫.
(7)学術出版研究部会
 2003年7月3日(東京電機大学)「出版と知のメディア論」長谷川一.
 2003年9月4日(東京電機大学)「学術コミュニケーションの危機における学術情報電子化の状況―アメリカ大学出版部による学術専門書オンライン化の意味」山本俊明.
 2004年3月25日(東京電機大学)「学術データ・データベースの今後―パブリックドメインと知的財産権の狭間で」長塚隆.
(8)デジタル出版部会
 2003年6月20日(東京電機大学)「『我が国の科学雑誌に関する調査』について」大沼清仁,雑誌研究部会と合同.
(9)関西部会
 2003年6月30日(大阪市立大学文化交流センター)「Linuxのボランタリーモデルで編集の機能は供給できるのか」中野潔.
 2003年7月25日(大阪市立大学文化交流センター)「近代後期のドイツ書籍業史」江代修.
 2003年8月25日(大阪市立大学文化交流センター)「活版から電子ジャーナルへ」中西秀彦.
 9月12日(関西学院大学ハブスクエア大阪)「政治漫画の分析」茨木正治.
 2003年10月24日(大阪市立大学文化交流センター)「イギリスの学術情報サービス―電子メディアを中心に」呑海沙織.
 2004年1月23日(大阪市立大学文化交流センター)「文字メディアの限界と未来」秋山哲
 2004年2月19日(関西学院大学ハブスクエア大阪)「整版から活版へ―揺籃期の和文タイポグラフィー」鈴木広光.
 2004年3月1日(関西学院大学ハブスクエア大阪)「『アーカイブ辞典』出版とその周辺」大西愛.

■ 6.プログラム委員会

 総務委員会と調査研究委員会によって構成される合同委員会を開催し,研究発表会の企画・運営に当たった.
(1)春季研究発表会(2003年5月17日,東京都千代田区上智大学7号館)
〈研究発表 第1部〉
 1.「インターネットとメディア犯罪」下村昭夫
 2.「電子編集のススメ―ツールsedによる用字用語の一括統一」浦山毅
 3.「出版コンテンツの現状と課題」深見拓史
 4.「メディアとしての『20世紀大学出版』―アメリカ学術出版の編制と現在」長谷川一
 5.「学術出版の経済性について―ベイリーJr.『出版経営入門』再考」中陣孝夫
〈研究発表 第2部〉
 6.「戦後日本農業出版ジャーナリズムの歩み」丁意平
 7.「日本の書籍出版の現状と企画実態―書籍出版社における企画プロセスとコンテンツ対応を中心に」蔡星慧
 8.「『日本型出版流通』と『大手総合取次』―四大取次,日配,二大取次の流通・取引の連続性と非連続性の検討」木下修
 9.「『少女の友』と『少女倶楽部』における編集方針の変遷」中川裕美
 10.「総括・戦後出版倫理の変遷について」橋本健午
〈特別シンポジウム〉
 「デジタル化で出版産業はどう変わるか」村瀬拓男・番沢仁識・龍沢武
 「個人情報保護法下のメディア批評誌」岡留安則・篠田博之

(2) 日本出版学会秋季研究発表会(2003年12月20日,大阪市立大学文化交流センター)
〈講演〉
 「著作権に関する動きと出版者の権利」樋口清一
〈研究発表〉
 「『日本出版関係書目 1867 – 1996』について」稲岡勝
 「出版産業の現状と課題」下村昭夫
 「自費出版の現在」田中薫
 「即売による週刊誌の売上について」伊藤良久
 「学術情報流通の現況―publish とpublicizeをめぐる一考察」稲田恵美子

■ 7.『出版研究』編集委員会

 『出版研究』編集委員会は,随時会合を開いて,学会誌『出版研究』の企画・編集にあたり,2003年3月20日に第33号(A5判,310頁,1000部,定価〔本体2,600円+税〕)を発行した.合わせて投稿規程の整備を行い,第34号の編集を行った.

■ 8.会報委員会

 会報委員会は,随時会合を開いて『日本出版学会会報』の企画・編集に当たり,次の2号を発行した.
 第110号=42頁,2003年7月31日(印刷部数700部)
 第111号=16頁,2004年1月15日(印刷部数700部)

■ 9.制作委員会

 前年度に引き続き,『出版研究』編集委員会と協力して『出版研究』34号の制作に当たった.

■ 10.関西委員会

 関西委員会は,学会の秋季研究発表会開催の立案と運営にあたり,日本出版学会秋季研究発表会を2003年12月20日に,大阪市立大学文化交流センターで開催した.

■ 11.国際交流委員会

 国際交流委員会は,随時会合を開いて,2003年度武漢において開催予定の国際出版フォーラムへの協力や,海外の関連学会との連携としての国際図書史学会との交流,海外の出版研究団体への情報提供等について検討した.また,4月26日には韓国の韓淇皓氏(韓国出版マーケティング研究所)を招いて講演会を上智大学において開催した.
 一方,中国・武漢において開催予定の第11回国際出版研究フォーラムについては,諸般の事情により延期されたが,発表者は既に決定され,2004年10月開催が確定している.また,あわせて,第12回国際出版研究フォーラムの日本開催の可能性についても検討を行った.

■ 12.出版企画委員会

 出版企画委員会は,随時会合を開いて,『白書出版産業―データとチャートで読む日本の出版』等の出版企画の内容について検討を行った.

■ 13.日本出版学会賞の審査・授与

 日本出版学会賞審査委員会は,第24回日本出版学会賞の審査にあたり,下記のとおり決定し,2003年5月17月,授与式が行われた.
◇日本出版学会賞
 佐藤卓巳『「キング」の時代―国民大衆雑誌の公共性』(岩波書店)
◇日本出版学会賞奨励賞
 鳥越信編『はじめて学ぶ日本の絵本史III III』(ミネルヴァ書房)
◇日本出版学会賞特別賞
 箕輪成男『パピルスが伝えた文明』(出版ニュース社),『出版学序説』(日本エディタースクール出版部)など一連の出版研究書

■ 14.日本出版史料編集委員会

 学会と出版教育研究所との共同編集による『日本出版史料8』(A5判,170頁,定価〔本体1,600円+税〕)を2003年5月刊行,引き続き第9号の編集に着手した.

■ 15.ウェブサイト委員会

 下記により,学会のウェブサイトを運営し,部会開催案内その他の情報提供を行った.
 http://www.shuppan.jp/

■ 16.役員(2004年度総会まで)

 会長=植田康夫
 副会長=遠藤千舟
 理事=合庭惇 浅岡邦雄 有山輝雄 今井悠紀 大和博幸 植村八潮
    川井良介 木下修 清田義昭 小出鐸男 古山悟由 芝田正夫
    竹内和芳 塚本晴二朗 中野潔 中村幹 丸田耕三 道吉剛
    諸橋泰樹 山本俊明 湯浅俊彦 吉川登 吉田則昭
 監事=中陣隆夫 藤本信彦
 事務局長=植村八潮
 名誉会長=清水英夫
 顧問=信木三郎 箕輪成男 吉田公彦・林伸郎

■ 17.常設委員会

  (◎=委員長,部会長.○=幹事)
1. 総務委員会=◎遠藤千舟 植田康夫 植村八潮 清田義昭 竹内和芳
2. 調査研究委員会=◎植田康夫 遠藤千舟 清田義昭
  歴史部会=◎浅岡邦雄
  出版流通研究部会=◎清田義昭 ○木下修
  出版法制研究部会=◎塚本晴二朗
  出版教育研究部会=◎諸橋泰樹
  出版技術研究部会=◎道吉剛 ○小出鐸男
  雑誌研究部会=◎川井良介 ○吉田則昭
  学術出版研究部会=◎斎藤秀朗 ○植村八潮 ○金子貴彦 ○山口雅巳 ○山本俊明
  デジタル出版研究部会=◎植村八潮 ○中野潔
3.『出版研究』編集委員会=◎川井良介 大和博幸 道吉剛 吉田則昭
4.会報委員会=◎古山悟由 中野潔 稲田隆
5.制作委員会=◎中村幹 秋田公士 石沢岳彦 稲田隆 稲田恵美子 上田宙
6.関西委員会=◎芝田正夫 今井悠紀 湯浅俊彦 吉川登
7.国際交流委員会=◎山本俊明 遠藤千舟 竹内和芳 津田和壽澄 羽生紀子藤本信彦 文ヨンジュ 吉田公彦
8.日本出版学会賞審査委員会=◎植田康夫 今井悠紀 小出鐸男 渋谷裕久 永嶺重敏 中野潔 吉田則昭
9.出版企画委員会=◎丸田耕三 植田康夫 木下修 星野渉
10.『日本出版史料』編集委員会=◎稲岡勝 浅岡邦雄 牧野正久 吉田公彦
11.ウェブサイト委員会=◎植村八潮 石沢岳彦 中野潔

■ 18.特別委員会

1. 選挙管理委員会=◎吉田則昭・岩井義和・塚本晴二郎・岩野裕一・伊藤良久

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