第19回 国際出版研究フォーラム発表「COVID-19の影響拡大における出版・電子書籍の現状と課題」植村八潮(2020年11月6日)

《第2主題:モバイル・コンテンツの販売とマーケティング》
 COVID-19の影響拡大における出版・電子書籍の現状と課題

 植村八潮
 (専修大学)

 
 韓国出版学会主催の第19回国際出版フォーラム(国際出版学術会議)において、第2主題「モバイル・コンテンツ販売とマーケティング」について発表機会をいただき、「COVID-19の影響拡大における出版・電子書籍の現状と課題」と題した報告を行った。
 今回の国際出版フォーラムはZoomによるオンライン発表となった。日韓中三カ国の出版学研究者がオンラインで研究発表することは過去に経験のないことである。主催する韓国出版学会の準備とご苦労は大変なものだったと思う。結果的にこれまでの国際学術会議と比較しても遜色なく十分な討議ができた。このことは、これまでの国際交流の蓄積の上に、韓国出版学会の先生方のご尽力と国際交流委員会の十分な対応があったからこそである。改めて感謝申し上げたい。
 その上で、やはり残念なのは、討議の後の懇親会で、先生方と交流し、親しく会話しながらお酒と食事を楽しむ機会を持てなかったことである。これからの国際出版フォーラムの基盤を維持し続けていくためにも、一日でも早くリアルな場での再会ができることを望んでいる。
 発表では、事前に拙稿を読んだ韓国出版学会の李銀浩先生(教保文庫eビジネス支援チーム次長)から、コメントと二つの質問をいただいた。韓国でもCOVID-19により図書館の電子書籍の貸し出しが3倍に増え、電子書籍の販売が増加傾向という。日本における状況を報告したことで、韓国も同様な状況であることをコメントいただいた。その上で、日本の出版社は具体的にどのような方法で無料提供したのかという問があり「主に出版社のウェブサイトで有料提供しているデジタル雑誌。電子書籍を期間中、登録することなく読めるようにした」と答えた。
 また、日本の緊急事態宣言に該当する韓国政府による防疫対策期間では、政府の支援で電子書籍やオーディオブック、さらに紙の本を無料で提供するイベントがあったという。韓国政府と書店が協力して、自由に本を読んで聞くことができるプラットフォームを構築するという。この点では日本と大きく異なっていて、韓国では政府により直接的な文化支援策が講じられていることが分かった。日本政府の支援策について問われたので、韓国政府が行ったような読者や出版界に対する直接的な支援はなく、書店に対しては一般の小売業として個人事業主向け支援を受けられただけである」と答えた。
 以下、発表の概要に触れておく。新型コロナウイルスの世界的流行は、出版産業に深刻な影響を与えており、その一方で、電子書籍の売上げ増加への好影響だけでなく、オンライン授業の導入とデジタル教材、図書館の閉鎖に伴う電子図書館への注目など、モバイル化、デジタル化の促進要因ともなっている。
 新型コロナウイルスの影響で外出自粛が続く期間における、出版社による期間限定の電子書籍無料公開と電子図書館の状況について取り上げた。
 大学のオンライン授業導入に伴い、多くの大学図書館が休館した。電子図書館サービスとして、提供する電子書籍の同時アクセス数を拡大したり、一定期間無料で読める試読サービスを受け付けたりしたところ、対前年比で約7倍の申し込みがあり、4月から7月までのアクセス数は対前年度比で約5倍となった。
 公共図書館では、2月中旬以降、臨時休館が相次ぎ、最大時9割超えて休館した。このため非来館型サービスである電子書籍が注目された。図書館流通センターの図書館向け電子書籍サービスでは、3月の貸出実績が対前年比255%、4月が同423%、5月が526%と大きく増加した。
 続いて、新しい電子書籍プラットフォームについて、小説投稿サイトとコンテンツプラットフォーム「note」を取り上げた。誰もが小説を無料で投稿・閲覧できる小説投稿サイトでは、大手6サイトに投稿された作品のうち、出版社により書籍化された作品は2019年で累積1万点を超えた。noteは、外出自粛要請が本格化した2020年4月から5月にユーザーが急増し、6300万を超えた。人気の職業作家による有料配信もあり、デジタルファーストの「場」に育っている。
 書籍流通の基盤を支えてきた雑誌やマンガの売れ行き不振で、書籍販売そのものが危うくなっている。大手出版社はデジタルコンテンツの直販に乗り出して成功し、雑誌流通を中心とした体制から、デジタルコミックやデジタルコンテンツを中心とした体制へ変化しつつある。一方で大学教育のデジタルシフトが進めば、専門書が教科書として採用される保障はない。書籍専門出版社は、授業で使える電子書籍を制作しない限り、収益の柱を失うことになる。雑誌流通に頼らない自立した形でデジタルシフトを探らざるを得ない、とまとめた。