「出版DX(デジタルトランスフォーメーション)としての大学における電子書籍制作と電子図書館公開」湯浅俊彦(2021年12月4日、秋季研究発表会)

出版DX(デジタルトランスフォーメーション)としての大学における電子書籍制作と電子図書館公開

 湯浅俊彦
 (追手門学院大学国際教養学部)

 
 本発表は、出版DXの観点から、大学の授業における学生の成果物の電子書籍化と電子図書館による公開を検討するものである。
 多くの大学が導入しているLMS(Learning Management System=学習支援システム)に提出された大学生のレポート課題などは、単に教員に提出され、採点されるだけでなく、学生の成果として保存、利用されることが望ましい。そこで学生が書いた授業成果物を「電子書籍化」する追手門学院大学の取り組みを検証した。
 研究目的は、2021年2月から開始された追手門学院大学における電子書籍制作システム「Romancer Classroom」(ボイジャー)によるEPUB3ファイルの電子書籍制作を通して、出版メディアの新たな可能性を探求することである。授業成果として制作した電子書籍を電子図書館サービス「LibrariE」に登録し、クラス内限定公開、学内限定公開、一般公開を行う。つまり、「本を読む」ことから「本を書く」「本を作る」ことへの移行が、出版DXを促進し、新たな出版活動の展開につながる可能性があることを明らかにすることにある。
 具体的には、追手門学院大学の授業科目「日本語ワークショップ」の書評や「Seminar2」のゼミ論文など、授業成果物の電子書籍化の取り組みを示した。「日本語ワークショップ」の科目では受講生に対して、電子図書館の中から好きな1冊を選び、他の受講生が読みたくなるような図書の紹介文を書くことを課題とした。その紹介文を他の受講生が読んでコメントを書き、紹介文とコメントをクラスの人数分だけ集約して図書の原稿を作成した。
 このWord文書をボイジャーが提供する「Romancer Classroom」によって電子書籍の世界的標準フォーマットであるEPUB3に変換し、電子書籍化を行った。そして、電子書籍を追手門学院大学が運営する電子図書館サービスに登録し、学内限定公開とした。このようにして制作された電子書籍1冊をもとに受講生によるグループディスカッションを実施し、本を作ることによる出版メディアに対する意識の変化を検証した。
 一方、大学2年生を対象とした授業科目「Seminar2」(湯浅ゼミ)において、ゼミ発表を行った内容を論文にして、それを電子書籍化し、授業内の指導に活用し、主体的な学びによる教育の質的向上を検証した。
 文部科学省は、2021年1月15日から2月1日まで「デジタルを活用した大学・高専高度化プラン」を公募し、「学修者本位の教育の実現」の取り組みの分野で174件の応募の中から44件が採択された。その中に追手門学院大学の申請が採択され、1億円規模の助成金を獲得した。この申請の中に今回ここで発表している「学修成果電子書籍化による『知の循環構造』の構築」が明記されているのである。
 ここでいう「知の循環構造」とは、発表者が提起している新しい電子図書館の概念であり、以下の内容を指している。
(1)学生が電子図書館を利用して、学修の成果物を生産。
(2)学生の成果物を電子書籍化。
(3)電子書籍化した著作物を電子図書館に登録し、公開。
(4)学生が制作した電子書籍をほかの学生が活用し、別の新たな成果物を生産。
(5)このような「生産→保存→流通→利用→生産」のサイクルを学内の電子図書館で創出するために、図書館が電子出版のプロデュース的機能と役割を果たす。

 つまり、今日のICT環境の中でこれまで紙媒体を中心に発展を遂げてきた出版メディアは、電子出版による生産、流通と、電子図書館による利用、保存といった局面に転換しつつある。
 本研究によって、出版におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、「本の読み手」であった読者の側が「本の作り手」になることによって、より積極的に出版メディアに関心をもつ可能性があることが明らかになった。「読む」から「書く」「作る」という変化は能動的な新たな「読者」の誕生を示唆している。
 なお、当日はオンライン視聴のオーディエンスから、授業成果物の紙媒体と電子媒体の特性の違いに関するものなど4件ほどの質問があり、活発な発表会となった。







(出典:追手門学院大学「学修成果を電子書籍化し学び合い~Romancerを使ったゼミ活動」https://www.youtube.com/watch?v=wMs5TeFzS1w