「書店としての図書館専門企業の仕入・販売実績について」伊藤民雄(2021年12月4日、秋季研究発表会)

書店としての図書館専門企業の仕入・販売実績について

 伊藤民雄
 (実践女子大学図書館)

 
1.研究の背景と目的
 本研究は、2017年2ヶ月間における図書館専門企業(「A社」という)の仕入・販売実績データを利用して、同社の仕入と返品のバランスが取れているか否か、得手不得手の分野等が存在するか否かを明らかにするために行った。2021年度日本図書館情報学会春季研究集会において吉井潤が発表した研究[註1]から着想を得た。
 A社には、新刊書の早期入手の要請に応える図書館専用の物流システムとして、発売後に入手が困難と予想される図書を一定部数買い切って、図書館に定期的に自動送本する仕組みとして「サービスB」、及び図書館が必要としそうな本を在庫する「サービスC」を有している。両システムは広く公共図書館に利用されており、同社は1998年の段階で返品率(返品総数/入荷総数)10%以内、品切率(客注切換冊数/総販売冊数)0%を目標としており、これがバランスの目安となる。
 
2.研究方法
 一般的に社外秘の図書の仕入・販売部数を研究対象とする場合、同データをどのように入手するかが大きな問題となる。本研究では、A社がかつて会員・提携出版社に対して5ヶ月経過した時点での販売実績を報告していた『販売月報』を利用することで解決を図った。入手した同誌の2017年6月号と同8月号の2冊の販売実績(2017年1月、3月の週刊新刊情報誌8冊に掲載されたサービスB(371点)、サービスC(4,294点)を利用したデータ分析と電子メールによる関係者への質問紙調査で行う。データ分析のため、同誌2冊の販売実績及び新刊情報誌8冊の書誌データについてOCRを利用してデータ化した。
 なお、本研究の限界は利用する販売実績が、通年ではなく、2ヶ月間の合計のため、全体の傾向を示すことはできない点にある。
 
3.結果と考察
3.1 2ヶ月間の傾向
 研究対象の2017年の2ヶ月間に刊行された図書の5ヶ月後の品切率は0.1~0.5%、一方で、返品率は9~17%の間で推移しており、本の需給予測の難しさが分かる。

3.2 サービスBの傾向
 NDC別の平均販売冊数は、絵本と文学が突出しているが、他分野はほぼ均等である。グループ別の販売冊数は、「文芸書」グループと「児童読み物」「児童ノンフィクション」が突出している。A社創業時出資社及びISBN出版社番号桁数2桁の老舗出版社の平均販売冊数が多い。本体価格と総販売冊数の分布は、図書館が購入しやすい2,000円以内の図書に集中している。

3.3 サービスCの傾向
 NDC別では、「文学」と「絵本」のように掲載点数が少なくても総販売冊数が伸長する分野がある。「子ども向け」図書のように総販売冊数は少ないが平均販売冊数は突出する分野もある。また、返品率は高くても「哲学」の20%、低いのは「歴史」と「子ども向け」である。一方、品切率が高いのは「言語」と「子ども向け」である。
 冊数で見る品切率の代わりに、点数で見る分野別の「客注切換率」(品切点数/掲載点数)を求めたところ、A社創業時出資社の客注切換率と返品率はほぼ同じであった。ISBN出版社番号桁数で検討したところ、桁数2桁の老舗出版社と7桁の新興出版社の返品率の高さが目立った。特定出版社団体では、人文会会員社の客注切換率が高く、他方、十社の会会員出版社(絵本・児童書のみで比較)の返品率が高いのに対し、それ以外の児童出版社の客注切換率が高かった。資料種別では、客注切換率が高い「学生用」と「語学」に対し、返品率は「テキスト」「学術書」「実務向け」が高く専門書は好まれていないようだ。推薦度については三つ星図書の推薦度が高かった。本体価格と返品率、本体価格の総販売冊数の間に関係性は見られなかった。
 
4.A社担当者から
 返品率が低い「歴史」の需給は比較的数字の読みやすいジャンルであり、「文学」は注文が激増する商品が多数ある。反対にNDCでいう1、4、5、7類は読み難いジャンルである。返品率の高かった老舗出版社と新興出版社の仕入れは、前者は高名な著者の作品が多く、品切れを起こさぬような心理が働くこと、一方、新興出版社についてはタイトル負けが考えられる。
 
5.最後に
 A社は、目標値(返品率10%以内、品切率0%)に近付ける努力を行っている。一部の出版社に斟酌した仕入れは返品に直結することから見られず、売れるか売れないか(=図書館が必要か必要でないか)の観点で仕入れられており、研究目的である仕入と返品のバランスは取れている。しかしながら、やはり需要予測の容易・困難な出版社、分野はあるようだ。
 
6.質疑応答
 品切率の代わりに使用した客注切換率についての補足説明、これまでの研究内容との継続性、今後の研究展望についての質問があった。
 
[註1]
吉井潤「図書館専門企業における図書仕入の実態」『2021年度日本図書館情報学会春季研究集会発表論文集』日本図書館情報学会、2021、pp.47-50